「徹さんは僕が連れて行くから。翔は冬馬くんと一緒に、先にマンションに行ってなさい」
そう言い残し、翼は徹を追い掛けて行った。残された翔と冬馬は、顔を見合わせる。お互いの兄にばれてしまったこの状況に、どうするべきかわからない。それでも、翔は口を開いた。
「とりあえず……寮に戻ろう」
「……うん……」
冬馬も頷いた。
寮に着くと、高峰に花瓶を借りた。自室のローテーブルの上に、ピンクの薔薇を飾った。
冬馬は自分のベッドに座って、携帯電話を操作している。父親に電話をかけるようだ。窓の方を向いて、小声で、何かしら話していた。どうやら先程の、徹に目撃され、どこかへ行ってしまったところを説明しているようだ。会話の内容まではわからないが、翔も内心どきどきだった。
「……うん。わかった。またあとで……」
冬馬は通話を切り、こちらを向いた。幾分か、表情が和らいで見えた。
「お兄ちゃんのことは翼さんに任せて、二人で予定通り来なさいって」
「……そうか……」
どのような会話をしていたのかはわからないが、冬馬は父親に、兄がどこかへ行ってしまった理由を、どう説明したのだろうか。先程の徹の、『やっぱり』という言葉を思い出す。そういえば、徹とは違って、翼は取り乱してはいなかった。翼も、同じ現場を目撃したはずなのに――。
背筋を、冷たい汗が伝う。もしや、気付かれていたのだろうか。そう考えれば、辻褄が合ってしまう。
翔は冬馬に視線を戻した。宿泊するための着替えを楽しそうに用意している。冬馬の家族と会うということが何を意味するのか、考えずにはいられなかった。
寮監の高峰に外泊届を提出してから、翔と冬馬は一緒に寮を出た。マンションでは、冬馬の父親が出迎えてくれた。何か聞かれる前から恋人だと名乗るのも変だと思い、翔は無難な挨拶をする。父親の態度も、至って普通だった。翔は内心で胸を撫で下ろした。
テーブルには御馳走が用意されていたが、徹と翼が、まだ到着していなかった。その時、玄関扉が外から開錠された。翔は無意識に身構えてしまった。既に一杯引っ掛けてきているのか、徹は泣き上戸のスイッチが入っているようだ。出迎えた父親は苦笑していた。
「冬馬……。誕生日おめでとう……」
啜り泣きながら、弟に向かってマーガレットの花束が差し出される。冬馬は困った顔をしながら、それでも嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。お兄ちゃん」
冬馬の表情を見て、徹は余計に感極まったようだ。ハンカチを片手に、しゃくりあげるように泣く。
そう言い残し、翼は徹を追い掛けて行った。残された翔と冬馬は、顔を見合わせる。お互いの兄にばれてしまったこの状況に、どうするべきかわからない。それでも、翔は口を開いた。
「とりあえず……寮に戻ろう」
「……うん……」
冬馬も頷いた。
寮に着くと、高峰に花瓶を借りた。自室のローテーブルの上に、ピンクの薔薇を飾った。
冬馬は自分のベッドに座って、携帯電話を操作している。父親に電話をかけるようだ。窓の方を向いて、小声で、何かしら話していた。どうやら先程の、徹に目撃され、どこかへ行ってしまったところを説明しているようだ。会話の内容まではわからないが、翔も内心どきどきだった。
「……うん。わかった。またあとで……」
冬馬は通話を切り、こちらを向いた。幾分か、表情が和らいで見えた。
「お兄ちゃんのことは翼さんに任せて、二人で予定通り来なさいって」
「……そうか……」
どのような会話をしていたのかはわからないが、冬馬は父親に、兄がどこかへ行ってしまった理由を、どう説明したのだろうか。先程の徹の、『やっぱり』という言葉を思い出す。そういえば、徹とは違って、翼は取り乱してはいなかった。翼も、同じ現場を目撃したはずなのに――。
背筋を、冷たい汗が伝う。もしや、気付かれていたのだろうか。そう考えれば、辻褄が合ってしまう。
翔は冬馬に視線を戻した。宿泊するための着替えを楽しそうに用意している。冬馬の家族と会うということが何を意味するのか、考えずにはいられなかった。
寮監の高峰に外泊届を提出してから、翔と冬馬は一緒に寮を出た。マンションでは、冬馬の父親が出迎えてくれた。何か聞かれる前から恋人だと名乗るのも変だと思い、翔は無難な挨拶をする。父親の態度も、至って普通だった。翔は内心で胸を撫で下ろした。
テーブルには御馳走が用意されていたが、徹と翼が、まだ到着していなかった。その時、玄関扉が外から開錠された。翔は無意識に身構えてしまった。既に一杯引っ掛けてきているのか、徹は泣き上戸のスイッチが入っているようだ。出迎えた父親は苦笑していた。
「冬馬……。誕生日おめでとう……」
啜り泣きながら、弟に向かってマーガレットの花束が差し出される。冬馬は困った顔をしながら、それでも嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。お兄ちゃん」
冬馬の表情を見て、徹は余計に感極まったようだ。ハンカチを片手に、しゃくりあげるように泣く。