凍てつく冬の朝、翔はいつもより少し早く目を覚ました。隣のベッドで、愛しい人が穏やかな寝顔を見せている。
翔はベッドから出て、隣のベッドの脇に腰を下ろした。
――かわいい……。
いつまでも眺めていたいような、そんな気持ちになった。
目覚まし時計が鳴り出した。けたたましいベル音に、冬馬は整った眉宇に皺を刻んだ。微かな呻き声を上げ、冬馬が薄目を開けた。
「おはよう」
ベル音が鳴り続けている中、しばらく見詰め合った。翔は手を伸ばして、目覚まし時計を止める。
「……やだ……。ずっと見てたの……?」
冬馬が蒲団から顔半分を出して翔を見上げる。
「かわいかったよ」
「もう!」
冬馬は顔を隠してしまった。翔は苦笑しながら、蒲団から出ている冬馬の柔らかな髪を撫でた。
「冬馬。誕生日おめでとう」
少しずつ蒲団をずらして、冬馬は顔を見せてくれた。
「……ありがとう……」
消え入りそうな声で、頬を赤らめながら言ってくれた。翔は冬馬の体を引き寄せ、その温もりを確かめた。今日はクリスマスイブ――二人が出逢った日だ。
翔と冬馬は部活の後、二人で駅前の花屋に向かった。翔が注文していた花を取りに行くためだ。
冬馬に店の前で待ってもらい、翔はすぐに出てきた。手の中には、一輪のピンクの薔薇があった――。
寮に戻ったら、すぐに冬馬の父親のマンションに行くことになっていた。同室の友達も呼んで、皆で冬馬の誕生日を祝おうということだった。何故か翔の兄である翼も呼ばれているらしい。冬馬の話によると、仕事関係で徹と翼は知り合っており、親しくしているそうだ。
翔は冬馬に誰よりも先にプレゼントを渡したかった。
「はい」
人通りが少なくなったのを見計らって、翔はピンクの薔薇を差し出した。
「……ありがとう……」
冬馬は照れながらも礼を言ってくれた。
視界の端で、白い花弁が揺れる。すぐそばで何かが落ちる音がした。マーガレットの花束が、アスファルトに落下したようだ。髪色が少し明るいスーツ姿の年若い男性が一人、放心状態でこちらを見ていた。その隣には、兄の翼がいた。この人が、冬馬の兄――徹か――。
「……あの……」
翔が声をかけようとした時、徹も我に返ったようだ。「はっ」と息を呑み、改めて冬馬と翔を交互に見た。
「……やっぱり……」
蒼い顔をして、徹は頭を抱えた。
「やっぱりそういうことだったんだー!」
そう叫ぶと、マンションとは別の方向へ走って行ってしまった。
「お兄さん! 『やっぱり』ってなんですかー!?」
翔は徹の後ろ姿に向かって呼び掛けるが、聞こえているのかさえもわからなかった。今まで黙っていた翼が、苦笑しつつ花束を拾い上げた。
翔はベッドから出て、隣のベッドの脇に腰を下ろした。
――かわいい……。
いつまでも眺めていたいような、そんな気持ちになった。
目覚まし時計が鳴り出した。けたたましいベル音に、冬馬は整った眉宇に皺を刻んだ。微かな呻き声を上げ、冬馬が薄目を開けた。
「おはよう」
ベル音が鳴り続けている中、しばらく見詰め合った。翔は手を伸ばして、目覚まし時計を止める。
「……やだ……。ずっと見てたの……?」
冬馬が蒲団から顔半分を出して翔を見上げる。
「かわいかったよ」
「もう!」
冬馬は顔を隠してしまった。翔は苦笑しながら、蒲団から出ている冬馬の柔らかな髪を撫でた。
「冬馬。誕生日おめでとう」
少しずつ蒲団をずらして、冬馬は顔を見せてくれた。
「……ありがとう……」
消え入りそうな声で、頬を赤らめながら言ってくれた。翔は冬馬の体を引き寄せ、その温もりを確かめた。今日はクリスマスイブ――二人が出逢った日だ。
翔と冬馬は部活の後、二人で駅前の花屋に向かった。翔が注文していた花を取りに行くためだ。
冬馬に店の前で待ってもらい、翔はすぐに出てきた。手の中には、一輪のピンクの薔薇があった――。
寮に戻ったら、すぐに冬馬の父親のマンションに行くことになっていた。同室の友達も呼んで、皆で冬馬の誕生日を祝おうということだった。何故か翔の兄である翼も呼ばれているらしい。冬馬の話によると、仕事関係で徹と翼は知り合っており、親しくしているそうだ。
翔は冬馬に誰よりも先にプレゼントを渡したかった。
「はい」
人通りが少なくなったのを見計らって、翔はピンクの薔薇を差し出した。
「……ありがとう……」
冬馬は照れながらも礼を言ってくれた。
視界の端で、白い花弁が揺れる。すぐそばで何かが落ちる音がした。マーガレットの花束が、アスファルトに落下したようだ。髪色が少し明るいスーツ姿の年若い男性が一人、放心状態でこちらを見ていた。その隣には、兄の翼がいた。この人が、冬馬の兄――徹か――。
「……あの……」
翔が声をかけようとした時、徹も我に返ったようだ。「はっ」と息を呑み、改めて冬馬と翔を交互に見た。
「……やっぱり……」
蒼い顔をして、徹は頭を抱えた。
「やっぱりそういうことだったんだー!」
そう叫ぶと、マンションとは別の方向へ走って行ってしまった。
「お兄さん! 『やっぱり』ってなんですかー!?」
翔は徹の後ろ姿に向かって呼び掛けるが、聞こえているのかさえもわからなかった。今まで黙っていた翼が、苦笑しつつ花束を拾い上げた。