そこで、後藤は思案顔になる。
「……思い出したのか?」
「まあな。あの個性的な格好のままでいてくれたら、すぐにわかったんだけど」
 個性的と言われて、後藤は口をへの字に曲げた。
「そのくらいにしておけよ」
 翔が声を低くし、重ねて言った。
「おまえに何がわかる!?」
「俺のように、なりたいのか?」
 後藤は目を見開き、その場にへたり込んだ。
「……誰かが、やらなきゃならないんだよ……」
 後藤は苦痛に顔を歪めて、左手で右肩を掴む。
「他の奴らは、俺に付いて来てくれたんだ! 俺が、しっかりしなきゃ……」
「だからって、オーバーワークは、故障を誘発するだけだ。休むことも覚えろよ」
 後藤は翔を睨み上げる。
「知ったふうなことばっかり……」
「経験者だから言えるんだよ」
 返す言葉がなく、後藤は口を噤んだ。
 城崎は、策士かもしれない。ただのお調子者のテニス馬鹿ではないようだ。翔は内心で、城崎を見直していた。
「決めた。俺、入部してやるよ」
「……え? でも、おまえ、故障者だろ?」
「だから、マネージャーとしてだよ。作戦とか、陣形考える人のことも、マネージャーって言うだろ?」
「……本気か?」
 後藤はなおも、半信半疑のようだ。
「本気だよ。その代わり、トレーニングメニューも、俺の指示に従ってもらう。今のおまえに一番必要なものは、休養だよ」
 後藤は、手の甲で目元を拭った。
「一緒に、上を目指そうぜ」
 翔は後藤に向かって、右手を差し出した。しばらくの逡巡の後、後藤は手を伸ばした。