「うん。そうだけど」
「西中のセッター……」
翔の脳裏に、ある映像が思い浮かぶ。天然パーマの長い髪を後ろで束ね、ビン底のような眼鏡をレインボー柄の眼鏡バンドで固定した顔。長髪を振り乱しながら、絶妙なタイミングでトスを上げまくる西中のセッターの姿――。
「えー!?」
頓狂な声を上げてしまい、冬馬を含めた三人の視線が集まった。
「思い出した」
翔は勢いよく、体を冬馬の方へ向けた。
「あいつ昔、天パでロン毛だったよな?」
「うん」
冬馬は苦笑しながら頷いた。
「ビン底眼鏡して、レインボー柄の眼鏡バンドで」
「そうそう」
翔は、高校で会ってからの後藤の姿を思い浮かべた。
「……爽やかになったなー……。ストパーまでしたのか……」
「寮では、今でもその眼鏡してるみたいだぜ」
城崎がそう言って、携帯電話に送られてきた写真を見せてくれた。なるほど。確かに、見覚えのあるビン底眼鏡をかけた後藤の姿があった。二号館の談話室と思われる場所で、同級生数人と並んで映っている。
「せめて入試の時、この眼鏡でいてくれたら……即答できたのに」
心の底からそう思った。
「部活引退した後さ、願書出す前に、担任に言われたんだよ。清潔感が大事だって」
冬馬が苦笑しつつ教えてくれた。
城崎の携帯電話が振動した。
「後藤、今日も部屋にいないらしいぜ」
メールの文面を確認し、城崎が言う。
「それ、どこ情報?」
寺坂が横を向いて尋ねる。城崎は、六組のテニス部員の名を口にした。
「確か、同室だったと思ってさ」
「後藤……。この雨の中、今日もトレーニングに行ってるのかな……」
冬馬が窓の外を眺めて呟いた。雨脚は、一向に弱まる気配を見せない。
「……仕方ねぇーなー」
翔が重い腰を上げる。
「寺坂」
「あん?」
寺坂は地元中学出身で、この辺りの地理に明るい。
「壁打ちできそうな場所、教えてくれ――」
「俺も行こうか?」と冬馬は言ってくれたが、翔が断りを入れる前に、城崎が口を挟んできた。
「止めとけって。バレーのことは、専門家に任せときゃあいいんだよ」
なおも心配そうな顔をしている冬馬は、翔にしか聞こえない声量で囁いた。
「肩使っちゃ駄目だよ?」
翔は破顔し、冬馬の頭を撫でた。額にキスぐらいしたい気分だったが、城崎や寺坂がいる前では、そうはいかない。
「行ってくるよ」
翔は一人、土砂降りの雨の中、寺坂が教えてくれた河川敷に向かっていた。傘をしっかりと両手で持っていても濡れてしまう程、雨脚は強いままだった。
「西中のセッター……」
翔の脳裏に、ある映像が思い浮かぶ。天然パーマの長い髪を後ろで束ね、ビン底のような眼鏡をレインボー柄の眼鏡バンドで固定した顔。長髪を振り乱しながら、絶妙なタイミングでトスを上げまくる西中のセッターの姿――。
「えー!?」
頓狂な声を上げてしまい、冬馬を含めた三人の視線が集まった。
「思い出した」
翔は勢いよく、体を冬馬の方へ向けた。
「あいつ昔、天パでロン毛だったよな?」
「うん」
冬馬は苦笑しながら頷いた。
「ビン底眼鏡して、レインボー柄の眼鏡バンドで」
「そうそう」
翔は、高校で会ってからの後藤の姿を思い浮かべた。
「……爽やかになったなー……。ストパーまでしたのか……」
「寮では、今でもその眼鏡してるみたいだぜ」
城崎がそう言って、携帯電話に送られてきた写真を見せてくれた。なるほど。確かに、見覚えのあるビン底眼鏡をかけた後藤の姿があった。二号館の談話室と思われる場所で、同級生数人と並んで映っている。
「せめて入試の時、この眼鏡でいてくれたら……即答できたのに」
心の底からそう思った。
「部活引退した後さ、願書出す前に、担任に言われたんだよ。清潔感が大事だって」
冬馬が苦笑しつつ教えてくれた。
城崎の携帯電話が振動した。
「後藤、今日も部屋にいないらしいぜ」
メールの文面を確認し、城崎が言う。
「それ、どこ情報?」
寺坂が横を向いて尋ねる。城崎は、六組のテニス部員の名を口にした。
「確か、同室だったと思ってさ」
「後藤……。この雨の中、今日もトレーニングに行ってるのかな……」
冬馬が窓の外を眺めて呟いた。雨脚は、一向に弱まる気配を見せない。
「……仕方ねぇーなー」
翔が重い腰を上げる。
「寺坂」
「あん?」
寺坂は地元中学出身で、この辺りの地理に明るい。
「壁打ちできそうな場所、教えてくれ――」
「俺も行こうか?」と冬馬は言ってくれたが、翔が断りを入れる前に、城崎が口を挟んできた。
「止めとけって。バレーのことは、専門家に任せときゃあいいんだよ」
なおも心配そうな顔をしている冬馬は、翔にしか聞こえない声量で囁いた。
「肩使っちゃ駄目だよ?」
翔は破顔し、冬馬の頭を撫でた。額にキスぐらいしたい気分だったが、城崎や寺坂がいる前では、そうはいかない。
「行ってくるよ」
翔は一人、土砂降りの雨の中、寺坂が教えてくれた河川敷に向かっていた。傘をしっかりと両手で持っていても濡れてしまう程、雨脚は強いままだった。