二学期が始まって二週間が経った。秋雨前線が猛威を振るい、連日のように悪天候が続いている。
 冬馬は土曜日の夕方から父と兄のマンションに泊まっていた。日曜の朝に帰寮し、雨に遭わずに済んだ。のどかな日曜日の昼下がりである。
 冬馬は談話室の窓から見える土砂降りの景色を眺めていた。何か気がかりなことがあるのだろうか。
「なんか、あったの?」
 翔が尋ねると、冬馬は「ちょっとね」と応えて窓から離れた。城崎と寺坂が座っているソファーの向かいに、並んで腰を下ろした。城崎は、前傾姿勢で携帯電話のメールチェックをしている。寺坂は、「それは何のポーズだ」と突っ込みたくなるような、足を前に投げ出して、ふんぞり返った体勢をしていた。
「俺……見たんだ」
 冬馬が声のトーンを落とした。何事かと、城崎や寺坂も視線を向けてきた。
「昨日、マンションに行く途中に、雨の中、通常なら有り得ないスピードで、傘も差さずに、俺を追い越して行く……後藤の姿を……!」
 寺坂とほぼ同時に、翔は声にならない叫びを上げた。
「どうしたの? 二人とも」
 冬馬が翔と寺坂の顔を交互に見る。寺坂はまだ蒼い顔をしていた。冷静さを取り戻して、翔は言った。
「いや……怪談かなと思っちゃって……。後藤を見たって?」
「うん。あれは、どう見たって、とばし過ぎだよ」
「――バレー部、大変らしいぜ?」
 携帯電話を持ったまま、城崎が切り出した。
「うちのクラスにも、バレー部の奴、いるだろ? そいつに聞いたんだけど、元々部員は少なかったけど、三年生が引退した直後に、二年生も退部しちゃったらしい」
「え? 全員?」
 寺坂がふんぞり返ったまま聞いた。
「そうらしい。元々、二・三人しかいなかったみたいだけどさ」
「大変だね」
 冬馬が相槌を打った。
「残されたのは、一年生六人だけだそうだ」
「六人? ぎりぎりじゃん」
 翔が反応すると、「やっと食い付いてきたな」と、城崎が視線を向けてきた。
「誰もキャプテンやりたがらなくてさ、後藤が引き受けたんだってよ」
「……初耳だ」
 冬馬が驚いていた。そういえばあの一件以来、後藤は姿を現さなくなった。
「ポジションとか、ちゃんと決まったのかなー。後藤は中学の時はセッターだったけど」
「さあ? そこまでは知らない」
 冬馬と城崎の会話を聞いていて、翔の中で何かが引っかかった。
「……セッター……。後藤って、セッターだったの?」
 隣にいる冬馬に尋ねる。