予報では熱帯夜だと言っていたが、冷房の効いた寮部屋は快適だった。スタンドの灯りに照らされた薄暗い室内に、冬馬の声が響く。
「……ねえ……」
 その声音にある種の艶めいたものを感じ、翔は動揺する。生唾を呑み込み、翔はゆっくりと首を動かした。冬馬はこちらに背を向けて、隣のベッドに腰掛けていた。
「……ん?」
 動揺を悟られないよう、翔は先を促す。
 冬馬は緩慢な動作で体を揺らして、こちらを振り向いた。長めの髪が、揺れる。冬馬の唇の割れ目が開き、声が放たれる。なんでもない動作なのに、心拍が激しさを増していく。
「……今日は……一緒のベッドで寝てもいい……?」
 翔は目を見開き、絶句した。冬馬はそんな翔の様子を見て、ゆっくりと立ち上がった。翔のベッドに一歩ずつ、近付いて来る。
「……駄目だ……!」
 声がかすれた。それでも、冬馬は立ち止まってはくれなかった。翔は歯を食いしばり、拳を握り締める。
「……察してくれ!」
 ベッドの目前まで迫った冬馬に向かって、翔は叫んだ。顔を上げる。冬馬は目を伏せたままで、不機嫌なようにも見えた。翔は必死に訴える。
「俺はおまえに……何をするかわからないんだ!」
 そう言うが早いか、顎を掴まれて唇に柔らかな感触のものを押し当てられる。
「……自分ばっかりが……好きだなんて思わないでよ……」
 上目遣いの、挑むような視線だった。
 その瞬間、最後の迷いが消し飛んだ。

「好きだよ」
「俺も」
「……ふ……ぁ……」
「……ごめん……こんなこと……」
「……謝らないで……」
「こういうのは、きっと、自然なことだと思うから……」
「……ずっと……触れたかった……こんなふうに……」
 濡れた冬馬の目尻に、キスを落とす。
 ――愛してる。
 翔は心奥から込み上げてくる気持ちを、言葉に乗せた。
「愛しているよ……冬馬」
 頭を撫でながら、込み上げてくる愛しさのままに言葉を紡いでいた。
 ぼやけた視界の中で、冬馬が一度大きな瞳を閉じる。やがて開かれた双眸から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……僕も……」
 掠れた声で、冬馬は言う。
「……僕も……愛してるよ……翔……」
 翔の瞳から、大粒の涙が溢れる。お互いを求め合うかのように、二人はどちらからともなく、唇を重ねた。

 ユニットバスの浴槽に浸かりながら、翔は口を開いた。
「――なあ。聞いていい?」
「……うん」
 冬馬が億劫そうに言う。冬馬は翔に凭れかかっていた。
「……いつ知ったの?」
「……何を?」