問い掛けると、冬馬はぼそりと応えた。
「叔母さんも、美人だと思って」
 その言い方から、姉のことも意識しているのだとわかった。
「……ずっと……お姉さんと叔母さんは、似てると思ってたんだ……」
 翔は遠い目をする。
「美人で、俺に優しいところが」
 冬馬の顔を見ながら、冗談めかして言った。
「でも、今日、会ってみてわかった。全然、似てないや……」
 姉の利緒は、おおらかな性格からか、豪快なところがある。だから、義理の弟である自分の世話まで焼いてくれるのだろう。それに対して、珠代は繊細で、可憐だった――。
「翔の周りには、美人が多い……」
 またしても冬馬がぼそっと言った。翔は少し困って、頭を掻く。
「お姉さんも、叔母さんも、身内なんだけど……」
 フォローにもならないフォローを入れる。前方を歩いていた冬馬が、突然立ち止まった。
「あ」
 冬馬は夜空を眺めている。冬馬に倣い、視線をはるか上空に据えた。翔は息を呑んだ。昼間の厚い雲は、いつのまにか無くなっていた。空を覆い尽くす程の、満天の星が広がっていた。この辺りは翔や冬馬の地元と違って住宅やオフィスが少ないため、夜の街が暗いのだ。
「今日は、新月なんだね」
 冬馬の言葉に、翔は頷いた。月明かりがない分、星々が、その輝きを増している。これでは、星座を探し当てる方が億劫になる。
 冬馬が後ろを振り仰ぎ、北の空を見る。
「あれかな?」
 冬馬が北天を指し示した。
「北極星」
 ――ポラリス。
 天の北極の程近く、ほとんど位置を変えないその星――。
 翔は無意識に、『星めぐりの歌』のメロディーを口ずさんでいた。
 翔の脳裏に、ある情景が思い出された――。
 幼い翔の両隣に、在りし日の父と母がいた。両親と共に、星空を見上げて歌っていた。おもちゃなんか何もなくても、きっと、幸せだった――。
 ――父さん……。母さん……。
 涙が、堰を切ったように溢れ出した。
「……翔……」
 冬馬が両手を伸ばす。冬馬の冷たい手が、ほてった頬に心地良かった。もしかしたら冷え症なのかもしれない。
「……くっ……」
 嗚咽が漏れる。翔は冬馬の肩口に顔を埋めた。冬馬は両腕を伸ばし、翔の背をさする。
 ――煌々きらりきらりら。瞬く星々に祝福を受ける。
「新月の夜は、月明かりがない分、暗いと思われがちだけど、実は、そうじゃないんだ」
 冬馬は夜空を見上げて、はっきりとした口調で言った。
「星々が、その輝きを、増すんだよ」