翔の意に反して、冬馬は表情を曇らせている。
「……リハビリ、ちゃんと通う?」
「……え?」
 今度は、翔が首を傾げる番だった。
「俺が付いてなくても、ちゃんとリハビリ、通ってくれる?」
 冬馬は真剣な表情で、重ねて言った。「なんだ。そんなことを気にしていたのか」と、合点がいった。
「ああ、もちろん。ちゃんと通うから。だから、テニス部に入ってくれよ」
 しばらく真顔で見詰め合った後、冬馬は相好を崩した。
「わかった。考えとく」
「……良かった……」
 翔は胸を撫で下ろした。不意に体が大きく揺れ、冬馬に支えられる。安心したら、突然眠気が襲ってきた。
「眠いなら、横になっていいよ」
「……すまん……」
 冬馬に寄りかかりながら、なんとかベッドに辿り着いた。
「……冬馬……」
 仰向けになった状態で体を横に向け、右手を投げだすように置いた。翔の思惑通り、冬馬の手が重ねられた。
「……ありがとう……」
 重さを増す瞼に抗いきれず、息だけで礼を述べた。曖昧になっていく意識の中、完全に閉じた瞼に、口付けをされたことがかろうじてわかった。
 ――おやすみ。
 冬馬に短い髪を撫でられる。愛しげにそう言われ、翔は深い眠りに落ちていった。