心配そうな冬馬の声が、すぐそばから聞こえた。この体制では、冷静さが失われていくのは時間の問題だ。
「大丈夫?」
 また冬馬が顔を寄せてきたのがわかった。意図せず、体中が熱を持っている。
「や、大丈夫。大丈夫だから……ちょっと……起きるわ」
「あ。ごめん」
 冬馬の体温が離れるのを確認してから、翔は両手をどけた。
「……いや、嬉しいんだけど……。嬉し過ぎて……刺激が強過ぎるっていうか……」
 上体を起こしながら、翔は軽く頭を振った。冬馬の顔を見ると、今更ながら赤面していた。こういうところが、ますますかわいいと思う。
 いつかのように、翔のベッドに凭れるようにして並んで座った。夏の大三角が、東の空に、瞬いている。
 翔は目を伏せ、幼い子供のように、両腕で膝を抱えた。
「――今朝早く、兄ちゃんが来たんだ」
 翔は震える声で話し始めた。体の右側に、冬馬の体温を感じながら――。
「……叔母さんが……」
 息が詰まって、言葉が出て来ない。冬馬の華奢な腕が伸び、翔を抱き締めた。膝立ちした冬馬の薄い胸に顔を引き寄せられる。
 翔は息を呑む。冬馬の心音が翔を安心させた。翔は両目を閉じて、顔の前に回された冬馬の右腕に、子供ように縋りついた。
「……珠代(たまよ)叔母さんが、入院してるって……」
 翔は噎び泣いた。冬馬の腕が涙で濡れる。
「珠代叔母さんは……俺があの家にいた時に、唯一、俺の味方だった人なんだ……」
 翔は噎せ返りながらも、昔話を語り始めた。
 兄の話では、ことの発端は昨夜家にかかってきた電話らしい。兄はまだ会社にいて、利緒が応対した。
 北見沢家本家とは、翔のことで色々と揉めたので、金銭的支援は継続して受けてはいたが、他の面ではほとんど絶縁状態だった。その均衡を破り、北見沢家当主である翼の祖父が、自ら連絡してきたようだ。
 祖父が言うには、翼の叔母にあたる珠代が病気で入院し、手術を目前に控えて意気消沈しているらしい。利緒からの電話を受けて、翼は直接祖父と連絡を取り、珠代の入院する病院へ、昨日のうちに見舞いに行った。
 珠代は駆け付けた兄に対して、はっきりと「翔に会いたい」と言ったそうだ。
「……何から話せばいいんだろう……。色々あり過ぎて……」
「ゆっくりでいいよ。俺、ちゃんと聞いてるから」