翌日から、冬馬の態度に変化があった。表面上は、普段と変わらずに一緒に行動するものの、口数が少なくなった。話し掛けても返ってくるのは、よそよそしい返事ばかりだった。
そして冬馬は放課後になると、翔の前から姿を消した。ホームルームの終了と同時に、冬馬は誰よりも早く教室からいなくなった。
寮の211号室は施錠されたまま、今朝出た時と変わっていなかった。冬馬は寮には帰っていない。ではどこに行っているのだろう。城崎や寺坂に聞いても、何も知らないと言う。父や兄のところかとも思ったが、仕事でまだこの時間はマンションには戻っていないはずだ。
けれども冬馬は、午後六時を過ぎる頃には、ひょっこりと寮に帰ってくる。不思議なことに、幾分かすっきりとした顔をして――。
どこに行っているのか、それとなく訊いてみると、冬馬はわざとらしい微笑みを浮かべて、「ちょっとね」と言うだけだった。翔はあの夜以来、冬馬の心からの笑顔を、一度も見ていなかった。
そんな日々が、一週間程続いたある日、ついに冬馬は、午後七時になっても帰って来なかった。さすがに心配になり、翔は食堂で夕食を済ませた後、寮監室を訪れた。高峰に冬馬のことを尋ねてみたが、やはり、何も聞いていないと言う。
門限まで残り十五分を切った午後七時四十八分、寮の固定電話が鳴った。高峰が窓口の方へ行き、受話器を持ち上げる。話の内容から、どうやら冬馬の父親らしいということがわかった。
電話口で「よろしくお願いいたします」と頭を下げた後、高峰は翔が待つソファーのところまで戻ってきた。高峰は表情を曇らせながら、話し始める。
「どうやら、木下くんはここ一週間、放課後になると、親御さんのマンションに行っていたようです」
翔は無言で頷いた。高峰はいたわるような口調になる。
「眠れていなかったのでしょうね。木下くんは一人で、夕方まで眠っていたのでしょう」
翔は目を見張り、膝の上に置いていた拳を握り締める。
――知らなかった……! 冬馬も……眠れない夜を過ごしていたなんて……!
「よっぽど、疲れが溜まっていたんでしょう。お兄さんが帰宅されると、今日はまだソファーで熟睡していたそうです。もう少しだけ寝させてあげようと、お兄さんは判断されました。七時過ぎにお父さんが帰宅されて、木下くんを起こそうとされたようですが、どんなに揺すっても、熟睡していて起きなかったんだそうです。今夜は、お父さんのマンションに泊まるということでした」
高峰はそこで言葉を切り、今度は翔を気遣うように言う。
「明日は土曜日です。明日になれば、木下くんは帰って来ますよ」
「……はい」