目覚まし時計の音で、冬馬はいつもの時間に起床した。カーテンの隙間から射し込む光が、幾分か強いような気がした。ベッドから出てカーテンを引く。やはり光が強い。
 窓を開けると、途端に冷気が襲ってきた。眼前に広がる景色に冬馬は息を呑んだ。日の光に照らされ、降り積もった雪が輝いて見えたのだ。
 冬馬は振り返って、デスクの上を見た。マフラーなどの防寒具が昨夜のまま置いてあった。我知らず、口元が綻んだ。
 もう一度窓の外に視線を戻し、冬馬は思った。今この瞬間翔も同じように、銀世界に心を奪われていればいい――。

 中学から帰宅すると、玄関に磨かれた革靴があった。
「おう。お帰りー」
「……お兄ちゃん」
 廊下にいたスーツ姿の兄が出迎えてくれた。兄の(とおる)は二十四歳で、父と同じ会社に務めている。二人で本社近くのマンションを借りて暮らしている。兄は母に似たのか、髪の色素が少し薄い。
「良かった。おまえの部屋に置いておこうかと思ってさ」
 徹は大きな紙袋と、ビニール袋を持っていた。
「これ、お父さんから」
 冬馬が靴を脱ぐのを待って、徹がビニール袋を手渡した。
「誕生日兼クリスマスプレゼント」
「――え……?」
 予想外の出来事に、冬馬は驚きながら受け取った。中を見てみると、マフラーと手袋、そしてニット帽が入っていた。
健悟(けんご)から冬馬が薄着だって、メールが届いたんだ」
『健悟』とは小四の弟の名前だ。携帯電話をまだ持っていないのに、パソコンメールを使いこなす今時の子供である。
「でも、それ……」
 徹は冬馬が身に付けている防寒具を見て、声の調子を落とした。
「あ。これは、借りたんだ……」
 一瞬、翔のことを何と説明すれば良いのかわからなくなった。
「友達に。返さなきゃならないから、嬉しいよ」
「そうか。なら良かった」
 翔との関係を表す言葉として、『友達』という言葉は的確ではない気がした。昨日初めて会ったからとか、付き合いが浅いからとかいう理由ではない。この違和感は冬馬の心にわだかまりを残し、波紋のように広がっていった。
「それで、これは俺から」
 徹が紙袋を持ち上げた。ケーキ屋の袋だった。
「え? ケーキ?」
「そう。サンタさんが乗ってるやつだけど、誕生日祝いのケーキだから」
「ありがとう。お兄ちゃん」
 不意にまた、目頭が熱くなりそうだった。