寮への帰り道を歩きながら、翔は隣を歩く冬馬に尋ねた。
「なんでこんなに、テーピング上手いの?」
 右肩は依然とした軽いままだ。
「うちの部、マネージャーいなかったからさ。女子は女子でテニス部あるし。だから、キャプテンや副キャプテンが、雑用なんかもしなきゃいけなくて。部員の手当てもその一つ。俺、一応、副キャプテンだったし」
「え!? そうなの!?」
 大げさに翔は驚いた。個人競技だからという理由で、テニス部を選んだと聞いていた。『副』は付いてもキャプテンという、上に立つ役割をこなしていたとは意外だった。
「……本当は、キャプテンやれって言われたんだけど……先輩と顧問に」
 冬馬は俯きながら言う。
「一番上手い奴がプレーで引っ張ってくれって。でも、断った。キャプテンなんて柄じゃないし。断り切れなくて、副キャプテンになっちゃったけどね」
 冬馬は苦笑しているが、翔は思う。先代のキャプテンや顧問の判断は間違ってはいないだろう。なんだかんだと言っても、副キャプテンを務めあげたのだから。
「あ、そうだ」
 冬馬は思い出したように、スクールバックから携帯電話を取り出した。電話帳のメモリーから発信する。すぐに応答はあったようだ。
「木下です」
 電話の向こうの相手と、親しげな遣り取りが続いていた。敬語で話していることから、目上の人だろうか。
「相談なんですけど、この辺りで、腕のいい整形外科か何かありませんか?」
 自分のために病院の場所を訊いてくれているとはわかったが、相手は誰だろうという疑問が湧いてきた。
「……はい。……はい。バスですか。どれくらいかかりますか?……ええ。わかりました。ありがとうございます」
 冬馬は意気揚々と通話を終える。
「……今の、誰?」
 率直な疑問を口にした。
「高峰先生だよ」
 あっさりと冬馬は応えた。
「……ええ!?」
 先程と同じくらい翔は驚いた。
「評判の整形外科らしいから、早く行こうよ。混んじゃうと大変だよ」
 冬馬が歩調を速める。
「……ああ」
 冬馬の後に続きながら、翔は思う。高峰といつのまに、そんなに親しくなっていたのだろう。今日はなんだか、驚かされることばかりだ。まだまだ、知らないことだらけなのかもしれない。新たな一面を発見するたびに、愛しさが募っていくようだ。
 ――冬馬って、なんだか計り知れない……。

 冬馬が高峰から教えられた整形外科は、バスで十五分くらいのところにある。
「帝仁の生徒がよく利用してるんだって」
 冬馬が隣から教えてくれた。
 翔は窓の外を眺めるふりをしながら、冬馬の横顔を見ていた。密着した体の左側が、熱い。おもむろに冬馬の顔がこちらを向く。視線がぶつかった。何か喋らなければと、顔が引き攣る。
「……そうだ。せっかく病院行くんだから、冬馬もその足、診てもらえよ」
「……えー?」
 冬馬は不快感を露わにする。