タオルを持ってグラウンドに戻ると、ハーフパンツからすらりと伸びた脚線に、思わず見惚れてしまう。冬馬は脱いだ靴の上に裸足で立っていた。
「……何?」
 動かない翔に、冬馬が首を傾げる。
「いや、なんでも。保健室の先生、これから会議だって」
 水道に近付き、蛇口を捻りながら言う。
「え……」
「大丈夫。俺が手当てするから」
 水の量を調節すると、水がちょろちょろと流れだした。皮膚が焼ける強烈な痛みが脳裏に蘇った――。
「さ、膝出して」
 顔を上げて冬馬に言う。冬馬は素直に片足を上げた。
「少し、沁みるかもしれないよ」
 そう言うが早いか、冬馬は痛みのため、ぎゅっと目を閉じた。生理的な涙が目の縁から溢れ、長い睫毛の水滴となり、弾ける。その光景がひどく官能的に思え、目が離せなくなる。
 不意に、冬馬が目を開ける。雫に縁取られた双眸に、自分の顔が映り、我に返る。知らぬ間に下腹部に違和を覚え、こんな時にと自嘲した。
「もう片方も出して」
 自分の声が、普段と変わらないことに安堵する。入れ代わりに出された冬馬の膝に水がかかる。砂が流れ落ち、赤い傷口が露わになる。
 翔は水の流れを止めた。
「拭くよ」
 声をかけ、タオルで冬馬の脚を覆う。膝の傷口には触れないように、慎重に――。
「……ありがとう」
 冬馬が静かに礼を言った。
 くるぶしまでの靴下を履かせるために、もう一度足を上げてもらう。冬馬がバランスを崩しそうになったため、左肩につかまるようジェスチャーした。冬馬は不安げに顔を歪める。
「……平気だから」
 微笑して、翔は促した。躊躇いがちに冬馬の右手が、翔の左肩に置かれる。あまり体重をかけないよう、気を遣われているのがわかって、翔はなんとも言えない気分になった。
 靴を履き替えて、校舎の中から保健室に向かう。ドアを開けると、養護教諭はいなかった。約束通り、机の上にガーゼや絆創膏、塗り薬などを用意してくれていた。
 冬馬を丸椅子に座らせて、翔は手を洗った。
 翔が冬馬の足元に、ひれ伏すように屈みこむ。傷薬を指に取る。
「沁みるよ」
 前もってそう言い、赤い傷口に傷薬を塗り込む。冬馬が翔の手元を覗き込むように、前屈みになる。影ができる。体が近い。心拍数が上がる。暑くもないのに、額にじっとりとした汗が浮かぶ。「見えにくいから」と体を引いてもらえば、それで済むことだ。だが、顔を上げてそれを言うことが、できない――。
 もう片方の傷口にも、傷薬を塗り込む。ガーゼを取るために立ち上がろうとした時、前傾姿勢のままの冬馬と、至近距離で目が合った。お互いに、息を呑んだ――。