「離すぞ」
「うん。ありがとう」
城崎の手が冬馬から離れる。
「大丈夫?」
冬馬の心配そうな顔が、目の前にあった。目の高さを揃えるために、冬馬は膝を曲げようとするが、すり剥いているために、眉宇に皺を刻む。
「……痛……」
冬馬は地面に腰を下ろし、膝を伸ばす。間近で見る血の滲んだ膝は痛々しかった。
「以前から、痛めていたのか?」
教師が城崎の言葉を受けて、翔に尋ねる。
「はい。しかも派手に」
翔の代わりに、城崎が応えた。教師は少しの間考える素振りをする。
「とりあえずは、保健の先生に診てもらって、その後は、病院行った方がいいかもしれないなあ」
『病院』という単語が、かなりの質量を伴っているように聞こえた。
「木下と北見沢。これから保健室行きなさい」
教師が翔と冬馬を交互に見ながら指示した。
「はい」
冬馬が返事をする。翔の表情は曇っていた。
「立てるか?」
城崎が冬馬に手を差し出す。翔はすかさず城崎を睨み上げ、牽制した。
「はいはい」
呆れたように、城崎は手を引っ込める。翔が先に立ち上がり、冬馬に左手を差し出す。冬馬は差し出された左手と翔の顔を交互に見て、躊躇っていた。
「……大丈夫だから」
そう言って翔は左腕を使い、冬馬を助け起こした。
「ありがとう」
冬馬が静かに礼を言った。
「歩けるか?」
「うん。さっきより、痛みも引いてきたし」
「そうか。ただし、ゆっくり行こうな」
二人はテニスコートを出て、並んで歩き始める。隣を歩く冬馬の匂いが、汗と混じり、鼻腔をくすぐる。今日は少し、血の臭いが混じっていた。翔は自分の右腕を無意識にさする。これから起こることを想像するだけで、気が重くなってくる。
グラウンドの端にある水道の蛇口の前で冬馬を待たせた。
「砂を洗い流した方がいいから、ここで靴と靴下脱いで待ってて。タオル借りてくるから」
「わかった」
軽く頷いてから、翔は保健室に向かう。グラウンドから入れる通用口があったはずだ。
翔が通用口を開くと、保健室の中にいた養護教諭は書類の準備に追われていた。
「すみません。友達が怪我をしたので、タオル一枚貸して下さい」
養護教諭が顔を上げる。
「怪我したの? 大変。私、これから会議なのよ」
棚からタオルを取り出して、手渡してくれた。養護教諭は三十歳前後の女性で、長い髪をアップにし、眼鏡をかけている。
「じゃあ、手当に必要なもの、出しといてもらえますか?俺がやります」
「ええ、わかったわ。すり傷なの?」
「はい。あと……テーピングもお願いします」
「ええ。準備しとくわ。ごめんなさいね」
これはもちろん、すっ転んだ冬馬が、どこか捻っているかもしれないという懸念もあってのことだ――。
「うん。ありがとう」
城崎の手が冬馬から離れる。
「大丈夫?」
冬馬の心配そうな顔が、目の前にあった。目の高さを揃えるために、冬馬は膝を曲げようとするが、すり剥いているために、眉宇に皺を刻む。
「……痛……」
冬馬は地面に腰を下ろし、膝を伸ばす。間近で見る血の滲んだ膝は痛々しかった。
「以前から、痛めていたのか?」
教師が城崎の言葉を受けて、翔に尋ねる。
「はい。しかも派手に」
翔の代わりに、城崎が応えた。教師は少しの間考える素振りをする。
「とりあえずは、保健の先生に診てもらって、その後は、病院行った方がいいかもしれないなあ」
『病院』という単語が、かなりの質量を伴っているように聞こえた。
「木下と北見沢。これから保健室行きなさい」
教師が翔と冬馬を交互に見ながら指示した。
「はい」
冬馬が返事をする。翔の表情は曇っていた。
「立てるか?」
城崎が冬馬に手を差し出す。翔はすかさず城崎を睨み上げ、牽制した。
「はいはい」
呆れたように、城崎は手を引っ込める。翔が先に立ち上がり、冬馬に左手を差し出す。冬馬は差し出された左手と翔の顔を交互に見て、躊躇っていた。
「……大丈夫だから」
そう言って翔は左腕を使い、冬馬を助け起こした。
「ありがとう」
冬馬が静かに礼を言った。
「歩けるか?」
「うん。さっきより、痛みも引いてきたし」
「そうか。ただし、ゆっくり行こうな」
二人はテニスコートを出て、並んで歩き始める。隣を歩く冬馬の匂いが、汗と混じり、鼻腔をくすぐる。今日は少し、血の臭いが混じっていた。翔は自分の右腕を無意識にさする。これから起こることを想像するだけで、気が重くなってくる。
グラウンドの端にある水道の蛇口の前で冬馬を待たせた。
「砂を洗い流した方がいいから、ここで靴と靴下脱いで待ってて。タオル借りてくるから」
「わかった」
軽く頷いてから、翔は保健室に向かう。グラウンドから入れる通用口があったはずだ。
翔が通用口を開くと、保健室の中にいた養護教諭は書類の準備に追われていた。
「すみません。友達が怪我をしたので、タオル一枚貸して下さい」
養護教諭が顔を上げる。
「怪我したの? 大変。私、これから会議なのよ」
棚からタオルを取り出して、手渡してくれた。養護教諭は三十歳前後の女性で、長い髪をアップにし、眼鏡をかけている。
「じゃあ、手当に必要なもの、出しといてもらえますか?俺がやります」
「ええ、わかったわ。すり傷なの?」
「はい。あと……テーピングもお願いします」
「ええ。準備しとくわ。ごめんなさいね」
これはもちろん、すっ転んだ冬馬が、どこか捻っているかもしれないという懸念もあってのことだ――。