「よし、わかった。じゃあ、現役の城崎と寺坂に、見本のラリーをしてもらおうか」
「先生! 俺、木下とやりたいです!」
瞳を輝かせながら、城崎が挙手した。
「ええ!?」
冬馬は困惑する。
「いや、しかし……木下には、ブランクがあるわけだから……」
教師も困惑していた。やがて城崎の熱意にほだされたのか、困った顔を冬馬に向けた。
「木下。軽くでいいから、城崎とラリーやってくれるか? もちろん無理しなくていいぞ」
表情を強張らせたまま、冬馬は城崎に視線を移す。その情熱に満ちた瞳を見て、ふっと相好を崩した。
「はい。わかりました」
城崎の手から離れたボールが、地面を跳ねる。引き寄せられるように、城崎の手の中に戻った。冬馬は久しぶりに握ったラケットの感触を確かめているようだった。クラス全員の視線が、城崎と冬馬に注がれていた。
「木下。無理はしなくていいからな」
教師が冬馬に呼び掛ける。
「はい!」
いつもより大きめの声で冬馬は応えた。
「よっしゃ! 行くぜ!」
高いテンションを保ったまま、城崎が声を張り上げる。
「お手柔らかに!」
ネットの向こうにいる城崎に向かって、冬馬が言った。
城崎がボールを高く上げる。ラリーが始まった。翔はずっと、冬馬を見ていた――。
冬馬はただのラリーでは、全くブランクを感じさせなかった。爽やかな汗をかきながらボールを追い、無心に打ち返す冬馬の表情は晴々としていた。
教師が笛を吹き鳴らす。
「よし、ありがとう。列ごとに分れて、ボールをラケットに当てる練習だ。城崎と寺坂は手伝ってくれ」
「先生!」
またもや城崎が、大声を上げて挙手をした。
「俺、もう少しだけ、木下とラリーやりたいです!」
「え?」
予想外の展開に教師は驚いている。例によって城崎のきらきらの瞳にほだされる。
「わかった、わかったから。少しだけだぞ。本気出すなよ。木下にはブランクがあるんだから」
「はい! ありがとうございます!」
城崎は嬉しそうだ。
「寺坂。こっちに来てくれ」
「はーい」
寺坂が教師の後に続く。
城崎と冬馬のラリーが続いているすぐ横のコートで、練習の順番待ちをしながら、翔はずっと冬馬を見ていた。
翔は今まで、城崎の言うテニスプレーヤーの冬馬と、現実の冬馬が、どうしても結び付かなかった。だが、冬馬のラケットを握る姿を見ていると、城崎象二がテニスをする人間として、木下冬馬に心底惚れ込んでいる理由が、本当の意味で、やっと理解できたような気がした。
「さすがだなー」
トスを上げる役を頼まれた寺坂が、感心したように言った。
「先生! 俺、木下とやりたいです!」
瞳を輝かせながら、城崎が挙手した。
「ええ!?」
冬馬は困惑する。
「いや、しかし……木下には、ブランクがあるわけだから……」
教師も困惑していた。やがて城崎の熱意にほだされたのか、困った顔を冬馬に向けた。
「木下。軽くでいいから、城崎とラリーやってくれるか? もちろん無理しなくていいぞ」
表情を強張らせたまま、冬馬は城崎に視線を移す。その情熱に満ちた瞳を見て、ふっと相好を崩した。
「はい。わかりました」
城崎の手から離れたボールが、地面を跳ねる。引き寄せられるように、城崎の手の中に戻った。冬馬は久しぶりに握ったラケットの感触を確かめているようだった。クラス全員の視線が、城崎と冬馬に注がれていた。
「木下。無理はしなくていいからな」
教師が冬馬に呼び掛ける。
「はい!」
いつもより大きめの声で冬馬は応えた。
「よっしゃ! 行くぜ!」
高いテンションを保ったまま、城崎が声を張り上げる。
「お手柔らかに!」
ネットの向こうにいる城崎に向かって、冬馬が言った。
城崎がボールを高く上げる。ラリーが始まった。翔はずっと、冬馬を見ていた――。
冬馬はただのラリーでは、全くブランクを感じさせなかった。爽やかな汗をかきながらボールを追い、無心に打ち返す冬馬の表情は晴々としていた。
教師が笛を吹き鳴らす。
「よし、ありがとう。列ごとに分れて、ボールをラケットに当てる練習だ。城崎と寺坂は手伝ってくれ」
「先生!」
またもや城崎が、大声を上げて挙手をした。
「俺、もう少しだけ、木下とラリーやりたいです!」
「え?」
予想外の展開に教師は驚いている。例によって城崎のきらきらの瞳にほだされる。
「わかった、わかったから。少しだけだぞ。本気出すなよ。木下にはブランクがあるんだから」
「はい! ありがとうございます!」
城崎は嬉しそうだ。
「寺坂。こっちに来てくれ」
「はーい」
寺坂が教師の後に続く。
城崎と冬馬のラリーが続いているすぐ横のコートで、練習の順番待ちをしながら、翔はずっと冬馬を見ていた。
翔は今まで、城崎の言うテニスプレーヤーの冬馬と、現実の冬馬が、どうしても結び付かなかった。だが、冬馬のラケットを握る姿を見ていると、城崎象二がテニスをする人間として、木下冬馬に心底惚れ込んでいる理由が、本当の意味で、やっと理解できたような気がした。
「さすがだなー」
トスを上げる役を頼まれた寺坂が、感心したように言った。