「それはいい考えかも……」
 ドアの開閉音に、二人は話を止めて振り返る。
「ただいまー」
 寺坂が帰ってきた。
「おう。お帰り」
 翔は腕時計で時刻を確認する。間もなく、六時半になろうとしている。
「着替えて、食堂行くか」
 城崎が立ち上がった。
「ああ。北見沢も一緒に行こうぜ」
「わかった」
 応じて荷物を持ち上げながら、冬馬のことが気になっていた。
「なあ。冬馬見たか?」
 ドアノブを握りながら、寺坂に尋ねた。
「いや、見てない」
 停滞していた一抹の不安が、だんだんと膨れ上がっていく。
「もうすぐ夕飯だろ? そのうち帰って来るだろ」
 翔の不安を察して、城崎が言った。
「ああ。じゃあ、また後で」
 翔は廊下に出た。鍵を開けて、211号室に入る。室内は薄暗い。翔は電灯のスイッチを入れる。冬馬はまだ、帰っていなかった。
 着替えを済ませ、迎えに来た城崎と寺坂と一緒に、食堂へ向かう。当然のことながら、冬馬の姿はなかった。
 ――何か、あったのか?
 徐々に圧迫されているかのように、右肩が鈍く痛む。
「考え過ぎだろ? 後藤と一緒に、ファミレスにでも行ってるのかもしれないし」
 向かいの席で、城崎が明るい声で言う。寮の門限は午後八時だ。元クラスメイトとの話に花が咲き、夕飯を外で済ませる。そういうこともあるだろう。それならそれで、一向に構わない。だが翔には、冬馬にまだ話せていない秘密があった。それに通じることを後藤の口から明かされてしまうことを、彼は恐れていた。
 冬馬は、翔たちが夕食を終えて食堂を出る時刻になっても、その姿を見せてはくれなかった。