途方もない絶望感に苛まれる。冬馬の両腕は虚しく空を切る。渾身の力を込めて泣き叫んでも、その声を聞くものはもはやこの世にはいない――。
 ――父さん……! 母さん……! 僕を置いて行かないで!
 真っ暗な部屋で、泣きながらいつも飛び起きる。荒い呼吸を繰り返し、やがてカーテンの隙間から射し込む月明かりに目が慣れていく。自分の部屋で、一人きりでいることを思い知る。空を切った掌を見詰める。この手を握り返してくれる掛け替えのない人たちを、とうの昔に喪った。
 ――僕も……連れて行って……!
 冬馬の胸の中の空洞を、誰も知らない――。
 けれども、今日は一人ではなかった――。右の掌に、温かな感触がある。
「……冬馬!」
 力強い呼び声が鼓膜へと響いた。誰も握ってはくれなかった右手が、確かに握られている。
「冬馬……」
 浅い呼吸を繰り返しながら、ゆるゆると瞼を上げる。溜まっていた涙が滴り落ちた。必死な形相の翔と視線が絡み付く。
「……翔……」
 冬馬は我が目を疑い、眼を見開いた。愛しい人の名を呼ぶ。肩口を抱かれ、抱き起こされた。右手はまだ、翔の手の中に収まっていた。翔が電気を点けたのだろう。部屋は明るかった。呼吸はまだ整わず、体が小刻みに震えだす。
「冬馬! 大丈夫か?」
 この時、冬馬の脳裏に、ある光景が思い出された。五歳の頃、両親が身投げした橋の上に一人でいると、兄の徹が迎えに来てくれたのだ――。
 冬馬の頬を涙が伝う。翔は片方の腕で、冬馬の華奢な肩を抱き締める。翔の厚い胸板が目の前にあった。部屋のドアがノックされ、翼が顔を出した。
「翔? どうした?」
「兄ちゃん。なんか毛布持って来て!」
 翔が冬馬の布団を手繰り寄せながら言った。
「わかった」
 事態を把握したのか、すぐに翼はドアから離れた。入れ違いに姉がやってきた。
「大丈夫?」
 姉は部屋に入り、震えている冬馬を見ると、デスクにあったリモコンでエアコンのスイッチを入れてくれた。
「ありがとう」
 翔が冬馬の肩口を抱いたまま言うと、姉は軽く微笑んだ。
「温かい飲み物入れてくるわ」
 姉が部屋を出ると、今度は翼が、毛布を持って来てくれた。翼は冬馬の背に毛布をかけてくれた。姉はハーブティーをデスクに置いてドアを閉める。
 翔は冬馬の掌に自らの手を重ねたまま、もう片方の腕で冬馬の背を毛布越しに抱き締めていた。
 あの日の徹の声が、聞こえたような気がした――。
『生きててくれてありがとう!』
 駆け寄った冬馬を抱き留めながら、徹はそう言ってくれたのだ。
――お兄ちゃん……。
 涙が後から後から溢れてきた。ずっと忘れていたことを、翔が思い出させてくれた。
 冬馬は翔の手を握り返すと、彼の厚い胸板に身を任せた。