「生徒には、タイム・スケジュールに従っていただきます。平日は毎朝六時半に起床し、寮の清掃があります。何しろ広い寮ですから、寮監の私だけではとてもとても……」
 高峰は後頭部を掻く仕種をする。
「七時十五分から朝食です。七時四十五分には食堂を閉鎖します。食べ終わっていなくても、食堂から出ていただきます」
「……厳しいですね」
 冬馬は率直な感想を言った。高峰は涙袋の下に皺を寄せた。
「集団生活ですから、ある程度の規律はいたし方ありません。確かに朝に弱い子は、入学当初は例年辛そうです。ですが、だんだん慣れていきます。このように、寮では規則正しい生活が送れます。夜には自室学習時間といって、部屋から出ずに、勉強する時間が設けられています。寮室は基本二人部屋ですから、一人では勉強しない子も、教えてもらうことで学習の習慣ができていきます」
 高峰がここまで話した時、見知った人物が近付いて来ることに気付いた。
「――冬馬?」
「お兄ちゃん」
 兄は訝しげな表情をしていた。
「もしかして、受けたい高校って、帝仁?」
 冬馬は無言で頷く。徹はあからさまに驚いた顔をした。
「――何でまた?」
 思ったことをそのまま口にしたようだ。
「俺はてっきり、家から通うんだと……」
 そう言った直後、冬馬が一人ではないことに気付いたようだ。徹は狼狽する。
「先生ですか? 失礼いたしました!」
 徹は深く頭を下げて謝罪した。
「いえいえ。帝仁高校一号館寮監の高峰と申します」
 高峰はにこやかに挨拶した。
「お宅の生徒さんは、生活態度が真面目だって、近所では評判ですよ」
 徹がにこにこ顔で言った。
「そうですか。ありがとうございます」
 高峰も頭を下げながら応えた。徹と冬馬を交互に見て、高峰が話し始める。
「一学年だけで百八十人もの生徒が在籍しています。そして、それぞれが違った事情を抱えています」
 高峰は一呼吸置いて言葉を切った。
「中には、寮生活に馴染めない子も少なからずいます」
 このことが、さっき高峰が言っていたデメリットなのだろう。
「そうですよね。それだけの人数が集まれば……」
 真面目な顔になって、徹が相槌を打った。
「……そういう時、どうするんですか?」
 今まで黙っていた冬馬が口を開いた。
 高峰は冬馬の瞳を真っ直ぐ見て、優しく言う。
「寮室にいたくないのであれば、ひとまず寮監室に避難していただきます。根気良く話してくれるのを待って、快適な寮生活を送っていく方法を一緒に考えます。決して、悪いようにはいたしません。必要とあれば、寮室を変えることもできますし、寮自体を移ることも可能です。どうしても生活していけないのであれば、親御さんと相談して、退学という手段も視野に入れています。
 生徒を全力で支えようとしているのは、私だけではありません。学校へ行けば、担任の先生や教科の先生方が、生徒たちを全力でサポートしています。学校にはスクール・カウンセラーも常勤していますから、私や先生方に話しにくいのであれば、利用していただきます。