落ち込んでいたことも忘れ、翔は大声を出した。
「……え?」
 少年は驚いて翔を見ている。彼の瞳には、明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。
「俺が、気に掛けてる。あの時、橋で見かけた子は、ちゃんと家に帰ったかって」
 雪は止む気配がなく、翔の頭には白い粉雪が積もり始めていた。
「でも……」
 少年はまだ、借りることに抵抗があるようだ。
「俺はこのダウンがあるから平気だよ。歩いたら、手もあったまるし。そうだな……じゃあ……」
 翔はスクールバックを一旦地べたに置き、手頃な紙はないかと探したが、メモ用紙のようなものはなかった。仕方なくノートをめくり、空白のページの端を少し破り取った。シャーペンを取り出し、数字を書き込む。平気だとは言ったものの、手がかじかんで上手く書けない。
「ほら」
 翔がノートの切れ端を折りたたみ、少年のコートのポケットに入れた。
「それに、俺の電話番号書いたから。家に帰って、落ち着いてからでいいから、電話してくれ。何時になってもいいから」
 翔は少年の目を正面から見て、力強く言い切った。
「……わかった。ありがとう」
 少年はそう言い、歩き出した。表情が少し和らいでいるように見え、翔はほっとした。
「じゃあな」
 翔は、少年が橋を渡りきり、角を曲がって見えなくなるまで見送っていた。