冬休みの残りの一週間は、翔の部屋で勉強をして過ごした。冬馬は自宅に届いた帝仁高校の資料を読み進めたり、パソコンでホームページを閲覧したりして、研究を進めていた。
 土曜日の朝、冬馬は少し大きめの荷物を持って、家を出て駅に向かった。行く先は、父と兄のマンションだ。
 今になって受験先を変えるのだから、父に相談するのは、できるだけ早い方がいい。そう思って、この週末にしたのだ。「じゃあ、週末来られないのか」と、翔は電話口で残念がっていた。学校が始まったため、放課後はお互いに自宅で学習することに決めたのだ。あからさまに落胆する翔の顔を、思い浮かべるだけで笑いが込み上げる。父に進路のことで相談に行くのだと翔に告げると、途端に真剣になり、「Good luck!」と、覚えたての英単語で、冬馬を送り出してくれた。翔のそういうところが、すごく好きだと冬馬は思う。彼の熱誠なる優しさを、とても愛おしいと思った。
 冬馬は特急列車に揺られながら、父と兄にどう切り出すかを考えあぐねていた。翔と少しでも長く一緒にいたいという想いは、確かにあった。けれどもそれだけの理由で、帝仁に進学したいわけではない。冬馬自身、自分なりに調べた上で、進学したいと思ったのだ。だからこそ、気合を入れねばならない。
 父を説得する材料を探すため、マンションを訪ねる前に、一度下見もかねて帝仁高校の校舎と寮を見ておこうと思った。そのため、兄との待ち合わせの時間よりも一時間も早く駅に到着した。
 改札を出て、冬馬は帝仁高校へのアクセス情報を見遣る。帝仁高校は、父のマンションから歩いて十分程度のところにある。もしかしたら父や兄は、帝仁高校のことを知っているのかもしれない。冬馬は迷うことなく、正面の道に進んだ。閑静な住宅街を抜け、やがて交通量の多い大通りに出る。交差点を右に折れ、しばらく歩く。坂の上に赤銅色の校舎が見えた。私立帝仁高校だ。
 もっと近くで見てみようと坂道を登っていると、白を基調としたシンメトリーで、三階建ての洋館のような建物があった。その玄関先で、掃き掃除をしている初老の男性がいた。門札は民家にしては大き過ぎる立派なプレートだった。『私立帝仁高等学校寮一号館』とあった。
 そうか。この辺りはもう帝仁高校の敷地内で、この道も私道なのだと合点がいった。一号館の通りを挟んで向かい側には、二号館があった。こちらは、一号館よりも新しいようだ。そして、寮を通り過ぎ坂を登っていくと、運動部専用のグラウンドがあるようだった。部活中の生徒たちの掛け声が聞こえてきた。ランニングをしているのだろう。
「もしや受験生の方ですか?」
 門の前で静止している冬馬に、箒を持った男性が尋ねた。
「はい。近くまで来たので、見学に来ました」