「あ。そうだ」
 少し歩いて冬馬は立ち止まった。袈裟がけしていた鞄のファスナーを開く。
「ん?」
 翔も合わせて止まってくれた。
「これ、返すよ」
 一瞬、翔の顔から表情が無くなった。冬馬が握っていたのは、帝仁高校のパンフレットだった。翔は無言でパンフレットを受け取る。
「ありがとう。俺、自分で資料請求したから」
 翔が顔を上げる。ぱっと表情が花やいだ。
「それじゃあ……」
「うん。俺、帝仁受けること、真剣に考えてみようと思う」
 突然腕を引き寄せられた。何事かと思った瞬間には、もう、翔の腕の中にいた。
「ありがとう。すごく嬉しい」
 耳元で発せられた声が、とても熱っぽく聞こえた。体が離れる時、翔の顔を見ることができなかった。
「行こうぜ」
 翔は既に歩き出している。
 全身が脈打つような激し過ぎる鼓動を、煩わしいとさえ感じる。胸が軋むかと思う程、苦しい。好きだと自覚すればする程、切なさは募っていく――。