一番上にあるのは、テニス部の仲間からのものだ。一枚一枚、手に取りながら読んでいく。クラスメイトや部活の後輩からのものだった。そういえば、自分は送っただろうかと思案していると、最後の一枚に目が釘付けになった。
 年末までは毎日見ていた筆跡が、数日見ていないだけで、とてつもなく懐かしく思えた。丁寧に書いてくれたのだとわかる。差出人の名前は、『北見沢翔』だった。翔が自分の名前を書いてくれたことに小さな感動を覚えながら、冬馬は震える指で年賀状を手に取った。ゆっくりと手首を返し、裏面を見る。
 中央に大きな字で『迎春』と書かれている、ダイナミックなデザインだった。おそらく筆ペンで書いたのだろう。留めやはねが、なかなか上手だった。『迎春』の字の下に、ボールペンで書かれた文章を読んだ時、冬馬は息を呑んだ――。
 不意に、視界がぼやけた。翔の年賀状に雫が落ちる。自分の涙だと気付くのに、数秒を要した。字が滲んでしまう。拭わなければと思うのだが、涙が、後から後から溢れてきた。嗚咽が漏れる。
『冬馬の新しい毎日が、輝きに満ちていますように』
 年賀状には、そう書かれていた。
 翔が好きだと、ようやく気付いた。いつのまにか、好きで好きで、たまらなくなっていた。ただそばにいるだけで、心臓が早鐘を打つ。彼の、一挙手一投足が、気になってしょうがない。そんな自分の状態を、恋によるものだと納得がいった。
 胸を焦がすようなこの想いは、雪のように涔々と、冬馬の心に降り積もっていったのだろう。翔に初めて出逢った、あの夜から――。

 冬馬と翔は連れ立って、近所の神社に初詣でに出掛けた。年が明けてから神社に行くのは二度目だったが、翔と一緒だということが、冬馬にとって特別な意味を伴っていた。
 柏手を打って、祈願を終えた。そっと隣にいる翔を見上げる。翔はまだ祈っていた。
「何お祈りしたの?」
 気になって、冬馬は尋ねた。
「言わないよ。ご利益なくなりそうじゃん」
 微苦笑を浮かべながら、翔は応えた。神社から出て、翔の英語対策のための単語帳を見繕うために、以前二人で行ったショッピングモール内にある大型書店に向かっていた。
「……冬馬は?」
 考え込むように正面を見詰めてから、翔が訊いてきた。
「何お祈りした?」
「言わないよ。ご利益なくなるから」
 冬馬はそっぽを向き、わざとそっけなく応えた。また、顔がほてるのを感じる。言えるわけがない。冬馬は、「翔と一緒にいられますように」と祈願したのだから。
「そりゃあ……そうか」
 良かった。翔は笑っていた。