冬馬は本音を口にした。俯いたまま、顔を上げることができなかった。
「そうか。どこだい?」
「でも、まだ……考え中なんだ……」
 冬馬はそれきり黙ってしまった。父は少しの沈黙の後、頷いた。
「うん。将来のことだ。悩むのも悪くない」
 冬馬は顔を上げる。父は微笑していた。
「でも、一人で悩みきれなくなったら、いつでも相談に来なさい。待ってるから」
「俺も! 俺も相談に乗る」
 酔いが回っている徹は、お猪口の酒をぐいと飲み干した。
「もうよしなさい!」
 さらに酒を注ごうとして手を伸ばした徹から、父が一升瓶を取り上げた。その様子を微笑ましく見ていた冬馬が、やがて口を開いた。
「ありがとう」
 酒を巡って争っていた親子が、冬馬を見る。
「お父さんも、お兄ちゃんも」
 父と兄は、相好を崩した。

 三十一日の朝、冬馬は家族と共に、祖父母の家へ向けて出発した。いとこに会えると麻里と健悟ははしゃいでいた。冬馬もまた、父と兄と過ごしながら、祖父母に会えることを楽しみにしていた。
 祖父母の家へは、父が運転する車で向かった。二時間程で到着した。
「よく来てくれたねえ」
 祖母が温かく出迎えてくれた。
「ただいま」
「お世話になります」
 父と母が挨拶をする。
「大きくなってぇ」
 祖母が孫たちを見回した。
「おばあちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
 健悟と麻里が、行儀よく頭を下げた。
「はい、こんにちは」
「おばあちゃん。おじいちゃんは?」
 きょろきょろと首を動かし、健悟が尋ねる。
「居間にいるよ」
「わかったー!」
 健悟と麻里は、居間の方へ駆けて行った。
「おや?」
 祖母が徹の様子に気付いた。
「顔色が悪いねぇ」
「昨日、飲み過ぎたんだよ」
 父が代わりに答えた。
「つい、調子に乗っちゃって……」
 徹が口を開く。徹は元来、あまり飲めるタイプではないのだ。
「あれま。せっかく、お歳暮で珍しいお酒をいただいたのに、飲めないねえ」
「え!?」
 祖母の呟きに、徹が心底驚いた顔をした。
「二日酔いが治るまではお預けだ」
 父が真面目な顔で言う。
「そんなぁ……」
 残念そうにしているが、徹はまだ頭が痛そうだった。
 父たちが居間に歩いて行き、冬馬も後に付いて行こうとした時、祖母に呼び止められた。
「冬馬も、大きくなったねえ」
 祖母が手を大きく伸ばして、冬馬の頭を撫でた。祖母の身長は、冬馬の肩ぐらいしかなかった。
「……うん」