そして、右側の壁には本棚があり、漫画が並んでいる。スポコン漫画が好みのようだ。冬馬がかろうじて知っているのは、有名どころの名作くらいで、他の漫画は全然わからなかった。
 三段ボックスには、五・六年前に流行ったロボットアニメのプラモデルが飾られていた。冬馬はそれを見て、懐かしいと思った。
右奥にはあるデスクの上に、教科書や過去問題集があった。問題集の高校名が目に飛び込んできた。『私立帝仁高等学校』とある。
「おまたせ」
 ドアの開閉音がし、お盆にマグカップを二つ乗せた翔が入ってきた。翔はローテーブルの上にコップを置き、お盆はデスクの本をずらしてスペースを作ってから置いた。まだコートを着たままの冬馬を見て、翔は微笑む。
「よく似合ってるよ。それ」
 途端に頬が熱くなった。冬馬は鞄を下ろしてコートを脱いだ。室内は暖房が効いていて温かかった。翔はその様子をローテーブルに頬杖をつき、微笑ましく見詰めていた。冬馬は翔の向かいに腰を下ろす。
 翔の入れてくれた紅茶に口をつけた。温もりが末端まで広がっていくような気がした。ようやく少し落ち着いてきた。
「――とりあえず、どんな状態か知りたいから、問題解いてみてよ」
 コップをローテーブルに置いてから、冬馬が言った。
「え?」
 同じように紅茶を飲んでいた翔が聞き返す。呆れ顔で冬馬は言う。
「『え』じゃないよ。勉強教えてほしいんでしょ?」
「そうだった!」
 翔は慌てて立ち上がった。過去問題集とノートと筆記用具をデスクから取り、戻ってくる。帝仁高校という名を、冬馬は初めて知った。ただ、同じ高校へ行けないかもしれないという予感だけが、冬馬の中に広がっていった――。
 翔の横に移動し、問題文にざっと目を通した。数学の問題だった。その見開きのページを見る限り、公立高校の問題よりは難しいが、難関と言われている明慶学園よりは大分簡単のようだった。冬馬はその二校の過去問題集を所有している。
 シャーペンを持ったまま、翔の手が止まっているのに気が付いた。見ると、彼の顔も強張っている。
「さっそくわからないんだ……」
 顔を強張らせたまま翔が言った。
「どれ? どこが?」
 冬馬がさらに近付いて問題文を読む。翔の体が微かに震えたような気がした。
「全体的に」
 泣き付くように翔が言う。その様子から、先程感じた震えは気のせいだったのだろう。
「えっとねえー」
 瞬時に脳内で公式を当てはめ、答えを導き出した。
「書いてもいい?」
 冬馬は翔の白紙のノートのページを示した。翔は頷く。自分のシャーペンを鞄から出すために手を伸ばそうとすると、翔のシャーペンを差し出された。ここで断ると自意識過剰だと思われそうで、一瞬躊躇したがシャーペンを受け取った。