冬馬は翔が書いてくれた地図に従って、翔の住んでいるマンションに向かった。眼前にそびえる建物を眺める。
「ここかな?」
 白を基調とした十一階建てのものだ。新築に近いような真新しいマンションだった。
 自動ドアを通り、エントランスに入る。パネルの前で翔に教えられた部屋番号を押した。間もなく応答があった。
『はーい』
 翔の陽気な声が聞こえた。カメラが付いているようで、向こうからはこちらが見えているらしい。
『冬馬。来てくれてありがとう。今開けるから、エレベーターで上がって来て』
「うん」
 ドアが開いた。言われた通りエレベーターに乗り込み、七階をプッシュする。
 エレベーターから降りると、右に折れ、突き当りまで歩く。七階南向きの705号室。ここに彼が住んでいる。インターホンを押すと、すぐに鍵の開閉音がした。
「いらっしゃい」
 翔が満面の笑みで迎えてくれた。
「……お邪魔します……」
 少し緊張しながら冬馬は足を踏み入れた。翔のスニーカーの他に、父や兄が履いているような革靴や、パンプスやブーツがきちんと並べて置いてあった。冬馬はそのブーツをチラシで見たことがあった。妹の麻里が母にねだっていたものだ。若い女性がいるのだろうか。
 翔が背後で施錠した。その音が、人気のない屋内に響いたような気がした――。
「今日、家の人は?」
 靴を脱ぎ、揃えて置いてから冬馬が尋ねた。
「いないんだ。出掛けてて」
 きまりが悪そうに翔は応えた。
 ――と、いうことは……。
 二人きりだと気付くと、途端に顔が青ざめていくのを感じる。
「俺の部屋、ここね」
 冬馬の動揺をよそに、翔が玄関に近い部屋のドアを開けた。
「先に入って、適当に座ってて。俺、飲み物持ってくるから」
「あ。うん」
 翔は廊下の奥へと行ってしまった。キッチンがあるのだろう。
 冬馬は恐る恐る少し開いているドアノブに手をかけた。金属の冷たい感触があり、冬馬は生唾を飲み込んだ。
「紅茶飲めるー?」
 キッチンの戸を少し開き、翔がよく通る声で聞いてきた。出端をくじかれた思いで、冬馬は振り向いて頷いた。
「……うん」
「ミルクと砂糖はー?」
「いらない。ストレートで大丈夫」
「わかったー」
 翔は笑顔でそう言うと、また戸を閉めた。
 気を取り直して、ドアを開き、室内に足を踏み入れる。翔の部屋は、冬馬が想像していたものより、はるかに整然としていた。フローリングの床にはカーペットが敷かれており、その中央にローテーブルが用意されていた。