冬馬は翔に連れられて、品揃えがいいというショッピングモールへ向かって歩いていた。冬休みのせいか、中高生のカップルとよくすれ違った。
 前方から歩いてくる高校生くらいの女の子は、瞳を輝かせて彼氏を見上げていた。ただ彼といるだけで、嬉しくて楽しくてしょうがない。そんな気持ちが見ているだけで伝わってきた。
「どうかした?」
 黙っている冬馬に、翔が顔を近付けてきた。
「いや、なんでも」
 慌てて冬馬は距離をとる。
「そう?」
 翔は時々距離が近い。冬馬は気付かれないように深呼吸した。
「さっきから顔赤いけど……。もしかして体調悪い?」
 心配そうに翔が尋ねた。
「ううん」
 冬馬はかぶりを振った。顔が赤かったのかと思い、さらに恥ずかしくなる。右手で顔を隠すようにした。早く何か言わなければと慌てると、先程のカップルの女の子が丁度横を通り過ぎて行った。嬉しそうに彼氏と腕を組んでいた。
「――ただ……デートって、こんな感じかなって……」
 言ってしまった後、何を言っているんだと自問自答した。頬が一気に熱くなるのがわかる。翔はどう思ったのだろう。恐る恐る翔を見ると、案の定きょとんとしていた。何か言わなければと口を開きかけると、翔は微笑した。
「――そうかもな」
「え?」
 今度は冬馬の方が、翔の真意を計りかねる番だった。
「それって……どういう……」
 冬馬は思わず立ち止まってしまい、ひとり言のように呟いた。
「冬馬!着いたぞ」
 翔がショッピングモールの駐車場の入口に立っていた。冬馬は駆け足で翔に追い着く。駅前に位置し、飲食店や書店まで入っている大規模なものだ。
「よく来るの?」
 店内を見回して、冬馬が尋ねる。年末のセールのためか、繁盛しているようだ。
「兄ちゃんとたまにな」
 翔は店内を迷わず歩いて行く。
「衣料品は二階だよ」
 エスカレーターに乗って二階に着くと、フロア全体が衣料品コーナーだとわかった。ビジネスからカジュアルまで、多種多様なようだ。
 ――こんなところに普段から来ているなんて。
 翔に話し掛けようとすると、おしゃれな若い店員と何やら話していた。こういうところで店員と話すことが苦手なため、冬馬は身構えてしまった。
「冬馬」
「はい!」
 緊張のために声が大きくなってしまったが、翔は気にも留めなかった。
「コートあっちだって」
「ああ……。うん」
 店員と翔の後ろを歩きながら、冬馬は翔に感謝していた。
 ――店員さんに訊いてくれたんだ……。