「うん。そう」
 翔と普通に話せていることに、冬馬は安堵を覚えた。
 間もなく店員が注文を取りにきた。翔が臆せず店員と話しているのを見て、冬馬は感心した。
「冬馬は? 何がいい?」
「……え?」
 翔の様子を見ていたため、反応が遅れてしまった。
「俺はカレーにするけど」
「ああ。俺も」
「カレー二つ」
 翔は堂々と冬馬の注文も告げてくれた。そんな翔を冬馬はすごいと感じた。そういえば友達同士でファーストフード以外の店に入るのは、これが初めてだった。
「どうした?」
 ぼうっとしているように見えたのだろう。翔が覗き込んできた。
「なんでもないよ!」
 変にどきっとして、慌ててのけ反った。心臓が悲鳴を上げそうだ。
「そう? ならいいんだけど」
 顔が赤くなっているかもしれない。話題をそらすため、鞄に手を伸ばす。中からビニール袋を取り出した。
「これ、借りてたやつ。ありがとう」
「ああ。ホントに一冬借りててもいいんだけど、買ってもらったんなら、良かったよ」
 翔は手を伸ばして受け取った。
「クリーニングに出そうかとも思ったんだけど、年末だし、時間かかっちゃうかと思って。早く返した方がいいと思ったし」
 冬馬はようやく落ち着いてきて、普通に話せるようになった。
「いいよ、いいよ。そんな気ぃ使わなくて」
 翔は袋を鞄にしまった。
「でも、コートは? やっぱ寒いんじゃないの?」
「ああ。お兄ちゃんが、新しいの買えって、お金くれたよ。サイズがわかんないからって」
「良かったじゃん!」
 瞳を輝かせて翔は笑う。「まただ」と冬馬は思った。昨夜の電話でもそうだったが、翔は自分のことのように一緒に喜んでくれるのだ。
 間もなく二人分のカレーが運ばれてきた。スプーンを口に運ぶ手を止めて、翔は言った。
「じゃあさ、この後、一緒に買いに行こうよ」
「……え?」
 冬馬の動きも止まった。
「まだコート買ってないだろ?」
「うん」
「じゃあ、買いに行こうよ。外出たついでに」
 どうやら翔は、冬馬と一緒に出掛けたいらしい。
「……でも、悪いよ。俺の買い物に」
 予想外の展開に、冬馬の頭は混乱していた。
「いいって。それとも……俺と買い物行くの、嫌か?」
 不安そうに翔は言った。
「違うよ!」
 あまりにも心許なさそうだったので、冬馬は即答してしまった。顔を輝かせて翔は言う。
「じゃあ一緒に行こう!」