その日の夜、冬馬は翔に電話をかけた。翔の番号は、昨夜のうちに登録しておいた。翔はすぐに応答した。
『もしもし?』
「あ。俺……冬馬だけど」
『うん。どうした?』
 出る前から冬馬だとわかっていたようだ。翔も冬馬の番号を既に登録しているらしい。
「あの……」
 昨夜の会話が思い出され、頬が熱くなる。顔が見えない電話で良かった。
『うん?』
 翔は相変わらず優しく、冬馬が話すのを待っていてくれる。
「……マフラーとか、返そうと思って」
『え? でも、ないと寒いだろ? 一冬(ひとふゆ)借りてていいんだぜ?」 
「『一冬』って……」
 冬馬は思わず吹き出してしまった。
「買ってもらったんだ。お父さんに」
『え!? そっかー! 良かったー!』
 翔の大げさな喜びように、冬馬は少し困惑した。
『ほら。俺の言った通りじゃないか』
 優しい声音が、冬馬の鼓膜を震わせた。
「――え?」
『言ったろ? 家の人が心配してるって』
「――あ」
 橋での遣り取りが、脳裏に蘇った。
『な?』
 恥ずかしくなり、冬馬はわざとそっけなく言った。
「いや、でも、お兄ちゃんとお父さんは一緒に暮らしてないから――」
 そこまで言った時、冬馬ははたと気が付いた。健悟は何故、兄にメールを送ったのだろう。
「――あれ?」
 離れて暮らしているため、お互いに日常生活について報告しているのかと思っていたが、違ったのだろうか。
『ちゃんと気に掛けてるんだよ。家族だもん』
 冬馬の思考に畳みかけるように翔が言った。デスクには、防寒具が二セットずつ置いてあった。それを視界に入れながら、冬馬は素直に頷いた。
「――うん」
『あ。じゃあさ、明日から冬休みだよな?』
「え? そうだけど……」
『俺、冬馬に頼みたいことがあるんだけど――』

「電話では言いづらい」と翔が言うので、翌日会うことになった。マフラーなどを返すために、一度は会うだろうとは思っていたが、こんなに早いとは思わなかった。
 お互いの住んでいる場所を確認した上で、翔が指定した場所はファミレスだった。翔は隣の学区の中学に通っているようだ。
 自動ドアから店内に入ると、翔が手を振っているのが見えた。
「よう。急に言って悪かったな」
「ううん。冬休みだし、いいよ」
 翔の向かいの席に座り、冬馬は父が買ってくれたばかりのマフラーなどをはずす。
「それ? 買ってくれたのって」
 翔が目敏く尋ねる。