「もう限界よ!」
仕事から帰宅するなり亜里沙は、玄関に靴を放り投げるような形で脱ぎ、ロフトを駆け上がった。どさりとベッドに倒れ込み、はあと大きくため息をつく。
「仕事、残業、休日出勤! もう疲れたわ! 私は癒し……癒しが欲しいの!」
テーブルに座って紅茶を飲んでいた美咲は、隙間から垣間見える亜里沙のバタバタとした足を見上げた。
「おかえり、今は23時かあ。今日も激務だねぇ……紅茶でも飲む?」
「うん、よろしく! いつもありがと」
そうして用意されたダージリンティーの香りに誘われ、ロフトから降りてきた亜里沙は、ゆっくりと紅茶を飲みながら美咲をちらりと見た。
「もう平気? ゲームでもしよか」
「ゲームなんてやる気力がないわ。欲しいのは癒しなんだってば」
「テレビ? 読書? 動画?」
「なおさらないわ」
「スイーツ」
「太るじゃないの!」
「はあ? さっきから全部ダメばっかりじゃない。それなら、結局なにがいいたいのよ」
「つまり、猫よ。モフりたいわけよ」
「ここペット禁止じゃなかったっけ」
「違うのよ、猫限定で飼っていいの」
「なんで猫限定?」
「大家さんが飼ってるからでしょ」
「ああ、なるほど……それなら最初から猫が飼いたいっていってくれれば。回りくどいのよ」
美咲はうんざりとした様子で、テーブルから離れソファーへと座る。
ここはロフト付きのシェアルーム。入居者は3人。このワガママがそのまま服を着たような亜里沙と、サッパリとした性格の美咲、そして三人目は――……。
「ただいまぁ~、疲れたァ、もうイヤだあ、癒しが欲しい~」
髪の毛を緩く巻き、フリルいっぱいで桃色のワンピースを着た柔らかな性格の、まどかである。
「って、あんたもなの? まどか」
「だからさ、美咲! やっぱり猫しかないわ。どうせ飼うなら白猫よ。穢れなき神聖な白猫」
「は? 白猫? ダメよ、黒猫に決まってるでしょうが」
「え、なんで黒なのよ!」
「あの高貴で触れにくいツンとした感じがいいのよ。わかるでしょう」
「ううん、わからないわ。ね、まどかはどうなの? 白か黒か」
急に話を振られて、まどかは困惑した。
そもそもどうしてそんな話になっているのだろうか。
「ええ……どっちでもォ……、どっちもかわいいよォ? ってか、犬じゃダメなの?」
「「選択肢増やしてるじゃないの!」」
「二人とも、どうしてそんなに熱く議論しているの……?」
「猫を飼いたいからよ。そして、買うなら白猫がいいわ。縁起がよくて比較的数が少ないんだから」
「ミステリアスで賢い黒だってば」
どちらも譲らないところに、まどかは一人冷蔵庫のアイスを取り出し、スプーンで口に運ぶ。
二人の議論は加熱している。
「飼いたい、っていいだした方でいいじゃない? それなら私の白猫」
「どうせアンタはズボラで猫の世話なんてしないわよ、私かまどかが世話をする羽目になるんだから、黒猫にしときなさい」
そこで聞き手に徹していたまどかがようやく口を開いた。
「私も世話するの? ああ、でも亜里沙は絶対しないだろうねぇ……」
議論は結局その後朝まで続き、そしてどちらも折れることがなかった。
そして翌日。
まどかは、しんじられない光景を目にしていた。
「仕方ないから、美咲のために親戚から黒の猫を貰ってきたのに……」
「私だって、それなら自分が折れるかなって亜里沙のために会社の人から白の猫を譲ってもらったのに……」
なんと、白猫と黒猫が部屋中を駆け回っていた。
ロフトから飛び降りてきた猫をキャッチし、まどかは絶句している。
二人は互いの行動に、ケタケタと声をあげ笑い出した。
「もうどっちも飼っちゃおう」
「そうね」
「でも……」
まどかが言い辛そうにもじもじとしていて、二人は怪訝な顔をした。
そこに、玄関のチャイムが鳴り響き、まどかは玄関を開ける。
扉を開けると、初老の女性が立っていて、にっこりと嬉しそうな笑顔で立っていた。
「大家さん!?」
「昨日、二人が白猫か黒猫かでケンカして譲らなかったからさァ……大家さんにお話ししたの。そしたら、じゃあ……うちの猫を1匹あげるって……」
そこでバスケットの中から飛び出したのは、額の中心から目のあたりにかけ八の字のように毛色が分かれているハチワレ猫だった。白と黒のコントラストが実に見事で、さらには足先だけが白く……みごとな靴下猫だ。
「「「なんでそうなるの!?」」」
にゃーお、と嬉しそうに鳴く三匹の猫を目の前にして、三人は大きく笑い合った。
仕事から帰宅するなり亜里沙は、玄関に靴を放り投げるような形で脱ぎ、ロフトを駆け上がった。どさりとベッドに倒れ込み、はあと大きくため息をつく。
「仕事、残業、休日出勤! もう疲れたわ! 私は癒し……癒しが欲しいの!」
テーブルに座って紅茶を飲んでいた美咲は、隙間から垣間見える亜里沙のバタバタとした足を見上げた。
「おかえり、今は23時かあ。今日も激務だねぇ……紅茶でも飲む?」
「うん、よろしく! いつもありがと」
そうして用意されたダージリンティーの香りに誘われ、ロフトから降りてきた亜里沙は、ゆっくりと紅茶を飲みながら美咲をちらりと見た。
「もう平気? ゲームでもしよか」
「ゲームなんてやる気力がないわ。欲しいのは癒しなんだってば」
「テレビ? 読書? 動画?」
「なおさらないわ」
「スイーツ」
「太るじゃないの!」
「はあ? さっきから全部ダメばっかりじゃない。それなら、結局なにがいいたいのよ」
「つまり、猫よ。モフりたいわけよ」
「ここペット禁止じゃなかったっけ」
「違うのよ、猫限定で飼っていいの」
「なんで猫限定?」
「大家さんが飼ってるからでしょ」
「ああ、なるほど……それなら最初から猫が飼いたいっていってくれれば。回りくどいのよ」
美咲はうんざりとした様子で、テーブルから離れソファーへと座る。
ここはロフト付きのシェアルーム。入居者は3人。このワガママがそのまま服を着たような亜里沙と、サッパリとした性格の美咲、そして三人目は――……。
「ただいまぁ~、疲れたァ、もうイヤだあ、癒しが欲しい~」
髪の毛を緩く巻き、フリルいっぱいで桃色のワンピースを着た柔らかな性格の、まどかである。
「って、あんたもなの? まどか」
「だからさ、美咲! やっぱり猫しかないわ。どうせ飼うなら白猫よ。穢れなき神聖な白猫」
「は? 白猫? ダメよ、黒猫に決まってるでしょうが」
「え、なんで黒なのよ!」
「あの高貴で触れにくいツンとした感じがいいのよ。わかるでしょう」
「ううん、わからないわ。ね、まどかはどうなの? 白か黒か」
急に話を振られて、まどかは困惑した。
そもそもどうしてそんな話になっているのだろうか。
「ええ……どっちでもォ……、どっちもかわいいよォ? ってか、犬じゃダメなの?」
「「選択肢増やしてるじゃないの!」」
「二人とも、どうしてそんなに熱く議論しているの……?」
「猫を飼いたいからよ。そして、買うなら白猫がいいわ。縁起がよくて比較的数が少ないんだから」
「ミステリアスで賢い黒だってば」
どちらも譲らないところに、まどかは一人冷蔵庫のアイスを取り出し、スプーンで口に運ぶ。
二人の議論は加熱している。
「飼いたい、っていいだした方でいいじゃない? それなら私の白猫」
「どうせアンタはズボラで猫の世話なんてしないわよ、私かまどかが世話をする羽目になるんだから、黒猫にしときなさい」
そこで聞き手に徹していたまどかがようやく口を開いた。
「私も世話するの? ああ、でも亜里沙は絶対しないだろうねぇ……」
議論は結局その後朝まで続き、そしてどちらも折れることがなかった。
そして翌日。
まどかは、しんじられない光景を目にしていた。
「仕方ないから、美咲のために親戚から黒の猫を貰ってきたのに……」
「私だって、それなら自分が折れるかなって亜里沙のために会社の人から白の猫を譲ってもらったのに……」
なんと、白猫と黒猫が部屋中を駆け回っていた。
ロフトから飛び降りてきた猫をキャッチし、まどかは絶句している。
二人は互いの行動に、ケタケタと声をあげ笑い出した。
「もうどっちも飼っちゃおう」
「そうね」
「でも……」
まどかが言い辛そうにもじもじとしていて、二人は怪訝な顔をした。
そこに、玄関のチャイムが鳴り響き、まどかは玄関を開ける。
扉を開けると、初老の女性が立っていて、にっこりと嬉しそうな笑顔で立っていた。
「大家さん!?」
「昨日、二人が白猫か黒猫かでケンカして譲らなかったからさァ……大家さんにお話ししたの。そしたら、じゃあ……うちの猫を1匹あげるって……」
そこでバスケットの中から飛び出したのは、額の中心から目のあたりにかけ八の字のように毛色が分かれているハチワレ猫だった。白と黒のコントラストが実に見事で、さらには足先だけが白く……みごとな靴下猫だ。
「「「なんでそうなるの!?」」」
にゃーお、と嬉しそうに鳴く三匹の猫を目の前にして、三人は大きく笑い合った。