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それからというもの、俺は後輩の付きまといを諦め、毎日一緒に帰っている。毎日十五分間みっちり部活に関するあれこれを聞かれ、なんとなく自分のプレースタイルが見えてきた頃にもなると、何故か後輩に昼休憩の時間まで脅かされていて。
「いやー、桜も完全に散っちゃいましたね!俺、先輩の教室から桜を見るのが好きだったのになあ」
「知らねえよ、ってか何でお前今日もいるんだよ」
「先輩が俺に会いたいから」
「調子乗んな」
「お前も素直じゃないな。なあ、渡辺くん、こいつ世話が焼けるだろ」
最初こそニヤニヤして、ワンちゃんまた来てるぞ、なんて言っていたクラスの友人たちも、いつの間にか当たり前のように受け入れていて、今ではあいつと軽く世間話をするようになった。大体、世話を焼いているのはこっちなんだよ。
「そんな先輩が可愛いのでもっと見せてほしいくらいです」
恥じらいもせず言ってのける渡辺に、何故か周りが頬を赤らめている。
「おい、変なこと言ってないで早く行くぞ」
机の横にかけていた弁当をひったくるようにして取り、大股で出口に向かう。
「ああ!ちょっと待ってくださいよ~。では、失礼します」
もうご飯を食べ始めている友人たちにご丁寧に頭を下げて小走りで駆け寄ってくる。こういうところは可愛いんだけどな。いかんせん声はでかいし態度もでかいし謎に付きまとってくるし。いくら俺が憧れだからと言って、ここまで干渉してくるのは何でなんだ。こいつが考えていることが正直全く分からない。それでも、しっぽをぶんぶん振って、先輩先輩と駆け寄ってくる姿は可愛いし、渡辺のペースに巻き込まれるのは悪くないと思っている自分がいる。
「俺、懲りないな……」
ため息を一つつき、隣を歩く大型犬をふと見上げると、何やら楽しそうに話している。やっぱ綺麗な顔してんな。こいつ、昼休みに女子から呼び出しとかかからないのかな
「先輩、何か考え事ですか?」
俺の目をまっすぐ捉えてくる。一か月一緒にいて唯一分かったことがあるとすれば、俺はこいつの顔と、こいつのこの熱を帯びたまっすぐな視線に弱いっていうことだけ。
「あ、いや、別に。お前の顔やっぱり綺麗だなって思ってただけ」
「先輩、本当に俺の顔好きですよね」
ひゅっとのどが詰まる音が聞こえる。ごめんと言おうとするも声が一向に出てこず、廊下のざわめきが頭を支配する。何か言わなければと思えば思うほどのどが絞まって、口から出したい思いが汗になって全身から噴き出していく。
「なーんちゃって!先輩ったらすぐ否定しないと、俺が女の子だったら勘違いしちゃってますよ?」
「おい、俺で遊ぶな」
「だって先輩可愛いんだもん」
こっちを見ていたずらっぽく笑う。その表情がさっきまでの緊張感と相まって、俺の鼓動を早くする。俺はもう、こいつから逃げられないのか。