幸知に連絡できないまま日にちだけがどんどん過ぎていた。流石に、これではまずいと今日こそはとスマホを手に取る。
いつものように、メッセージアプリを開きコメントを書こうとする。だけど書けない……。ずるずる来ている理由も、自分の中ではっきりしているから尚更たちが悪い……。
「幸知君……怒ってるだろうな……」
自分の部屋に悲しい独り言が落ちる。
――――リンリンリンリンとスマホの着信が鳴った。
ディスプレイに出ている名前は「政本幸知」、ついに来てしまったとスマホを手に電話に出る。
「もしもし」
「咲さん、今平気ですか?」
「うん」
久しぶりに聞く幸知の声だった。何だか緊張しているようなそんな声。
「あの……。連絡くれるって言ってましたよね……」
幸知の悲しそうな声が、スマホを通して聞こえる。幸知の顔が頭に浮かぶ。
「うん。ごめんね……」
「咲さん、この前言いかけてたことありましたよね? ちゃんと顔見て聞きたいです」
幸知の切実な気持ちが伝わってくる。私は、ひたすら申し訳ないと心が痛い。こんなことなら、長文でいいからさっさと感想を送ってしまえば良かったと今更後悔が滲む。
「そうだよね。幸知君の予定に合わせるよ。いつ会えるかな?」
「本当に会ってくれるんですか? 嘘じゃないですよね?」
「本当だよ。嘘言ってどうするの。私だって、ちゃんと感想伝えたいって思ってたよ」
「良かった……。もう会ってくれないと思った……」
幸知が、心底安心したのか声が幾分か明るくなった。
「応援するって言ったんだから、約束は守るよ」
「そう言ってくれて嬉しいです。あの……」
「ん? どうした?」
「もしかして菫にあの後、会いました? あいつ、ホールに俺を引っ張っていったと思ったら用事を忘れてたとか言って、全速力で走って行っちゃって……」
幸知の声は、さぐりさぐりと言った様子だった。
「んー正直に言うと、会った……」
迷ったけれど正直に言うことにした。こういうの告げ口になるのだろうか? でも、私だって面白くなかったのだ。
「やっぱり……。何か嫌なこと言われました?」
「・・・・・・。それは、本人に聞いて欲しいかな……」
物凄い意地悪かもしれないと思いながら、私はそう幸知に告げる。真っ黒でどす黒い私が外に出てしまった。
「ごめん。大したことじゃないから気にしないで。ちょっと挨拶されただけ」
「そうですか……。何かすみません」
「幸知君が謝ることじゃないよ。大丈夫。それより、いつ会えそうかな?」
私は、嫌な空気を払拭したくて話題を戻す。
「そしたら来週の土曜日とはどうですか?」
「うん。大丈夫だよ」
「一日、空いてますか?」
「一日?」
「はい。せっかくならデートしたいです」
私は、デートと言う単語に動揺してしまう。
「デ、デート?」
「駄目ですか?」
「いや、駄目っていうか……。幸知くん忙しくないの? 就活とか本格的に始まってるでしょ?」
「それは大丈夫です。歌も就活もちゃんとやってます」
「そう? じゃーまー、いいけど……」
「そしたら、時間と場所決めたらメッセージ送りますね。今日は、遅くに電話してすみませんでした」
「んーん。こちらこそ、連絡するって言ってしなくてごめんね」
「いえ、ではおやすみなさい」
「おやすみ」
プツッと電話が切れる。
私は、スマホをベッドにホイ投げる。そして、自分もバタンとベッドに突っ伏した。幸知の声が聞けて嬉しかった。いつもこちらを伺うように控えめに話す声。
大丈夫だと察すると、明るく嬉しそうに話す。そんな風に、私と電話で話す幸知が愛おしい。
「悔しいなー。どうして拾っちゃったんだろ……。私の夢はまだまだ遠い」
自分の部屋の天井を見て、空しい独り言を呟く。
「来週の土曜日か……。何着て行こう……」
複雑な気持ちを抱えながらも、幸知に会えるのは嬉しい。それは、素直に喜びたいって思いながら目を閉じた。
********
そして迎えた土曜日、朝から無駄に早く目が覚めてしまう。今週は、仕事が忙しい期間に入り、毎日遅くまで残業でゆっくり今日のことを考える暇がなかった。
それが私には丁度良くて、いつもよりも張り切って仕事に打ち込んでいた。
そしたら案の定、鈴木さんに気づかれてしまう。鈴木さんに、私はわかりやすいと言われてから、多分こういうところなんだろうなって自分でも思って仕事をしていた。
鈴木さんに指摘されたけど、わざと大げさな笑顔を送ったら苦笑いしてそっとしておいてくれた。
流石、鈴木さんわかってらっしゃる……。
そんな感じの一週間だったおかげで、うじうじ悩むことなくあっという間に土曜日が来た。週の中頃に幸知から連絡が来て、十一時半に横浜駅に集合することになった。
お昼を一緒に食べて、その後はプラネタリウムを見に行くらしい。プラネタリウムなんて、子供の頃に行ったきりだ。
そんなお洒落な場所に行こうなんて誘ってくれた人今まで居なかった気がする。
行く前にどんなところなのか、検索して確認しようと思っていたのに……。本当に今週は仕事が忙しくてそんな暇が残念ながらなく、今日を迎えてしまう。
無駄に早く起きてしまったので、先に準備をしてしまおうと私は動き出した。
簡単に朝食を済ませると、溜まっていた洗濯物を片づけて掃除機をかける。一週間ずっと、閉めっぱなしだった窓も全部開けて部屋の空気も入れ変えた。
それだけで、何か気分もスッキリした気になる。
そして、洋服を着替えてメイクを施す。デートに行くために身だしなみを整えるのは、本当に久しぶりだ。
それだけで、ドキドキしてきてしまうのだから私はきっと単純なのだ。
だからなのか、着て行く洋服選びに物凄く時間がかかってしまった。迷いに迷った末、紺色のロングのワンピースを選ぶ。寒いとまずいので大判のストールを持って行く。
靴は、ショートブーツを履いてコーディネートは完成。髪型は、ハーフアップのお団子にしてちょびっと若く見えないだろうか? と鏡の中の自分に問いかける。
我に返って、恥ずかしくてそっと鏡から視線を外した。準備がやっとでき上がった頃には、もう家を出ないといけない時間になっていた。
早く起きたはずなのに、結局ギリギリになってしまい焦って家をでた。
いつものように、メッセージアプリを開きコメントを書こうとする。だけど書けない……。ずるずる来ている理由も、自分の中ではっきりしているから尚更たちが悪い……。
「幸知君……怒ってるだろうな……」
自分の部屋に悲しい独り言が落ちる。
――――リンリンリンリンとスマホの着信が鳴った。
ディスプレイに出ている名前は「政本幸知」、ついに来てしまったとスマホを手に電話に出る。
「もしもし」
「咲さん、今平気ですか?」
「うん」
久しぶりに聞く幸知の声だった。何だか緊張しているようなそんな声。
「あの……。連絡くれるって言ってましたよね……」
幸知の悲しそうな声が、スマホを通して聞こえる。幸知の顔が頭に浮かぶ。
「うん。ごめんね……」
「咲さん、この前言いかけてたことありましたよね? ちゃんと顔見て聞きたいです」
幸知の切実な気持ちが伝わってくる。私は、ひたすら申し訳ないと心が痛い。こんなことなら、長文でいいからさっさと感想を送ってしまえば良かったと今更後悔が滲む。
「そうだよね。幸知君の予定に合わせるよ。いつ会えるかな?」
「本当に会ってくれるんですか? 嘘じゃないですよね?」
「本当だよ。嘘言ってどうするの。私だって、ちゃんと感想伝えたいって思ってたよ」
「良かった……。もう会ってくれないと思った……」
幸知が、心底安心したのか声が幾分か明るくなった。
「応援するって言ったんだから、約束は守るよ」
「そう言ってくれて嬉しいです。あの……」
「ん? どうした?」
「もしかして菫にあの後、会いました? あいつ、ホールに俺を引っ張っていったと思ったら用事を忘れてたとか言って、全速力で走って行っちゃって……」
幸知の声は、さぐりさぐりと言った様子だった。
「んー正直に言うと、会った……」
迷ったけれど正直に言うことにした。こういうの告げ口になるのだろうか? でも、私だって面白くなかったのだ。
「やっぱり……。何か嫌なこと言われました?」
「・・・・・・。それは、本人に聞いて欲しいかな……」
物凄い意地悪かもしれないと思いながら、私はそう幸知に告げる。真っ黒でどす黒い私が外に出てしまった。
「ごめん。大したことじゃないから気にしないで。ちょっと挨拶されただけ」
「そうですか……。何かすみません」
「幸知君が謝ることじゃないよ。大丈夫。それより、いつ会えそうかな?」
私は、嫌な空気を払拭したくて話題を戻す。
「そしたら来週の土曜日とはどうですか?」
「うん。大丈夫だよ」
「一日、空いてますか?」
「一日?」
「はい。せっかくならデートしたいです」
私は、デートと言う単語に動揺してしまう。
「デ、デート?」
「駄目ですか?」
「いや、駄目っていうか……。幸知くん忙しくないの? 就活とか本格的に始まってるでしょ?」
「それは大丈夫です。歌も就活もちゃんとやってます」
「そう? じゃーまー、いいけど……」
「そしたら、時間と場所決めたらメッセージ送りますね。今日は、遅くに電話してすみませんでした」
「んーん。こちらこそ、連絡するって言ってしなくてごめんね」
「いえ、ではおやすみなさい」
「おやすみ」
プツッと電話が切れる。
私は、スマホをベッドにホイ投げる。そして、自分もバタンとベッドに突っ伏した。幸知の声が聞けて嬉しかった。いつもこちらを伺うように控えめに話す声。
大丈夫だと察すると、明るく嬉しそうに話す。そんな風に、私と電話で話す幸知が愛おしい。
「悔しいなー。どうして拾っちゃったんだろ……。私の夢はまだまだ遠い」
自分の部屋の天井を見て、空しい独り言を呟く。
「来週の土曜日か……。何着て行こう……」
複雑な気持ちを抱えながらも、幸知に会えるのは嬉しい。それは、素直に喜びたいって思いながら目を閉じた。
********
そして迎えた土曜日、朝から無駄に早く目が覚めてしまう。今週は、仕事が忙しい期間に入り、毎日遅くまで残業でゆっくり今日のことを考える暇がなかった。
それが私には丁度良くて、いつもよりも張り切って仕事に打ち込んでいた。
そしたら案の定、鈴木さんに気づかれてしまう。鈴木さんに、私はわかりやすいと言われてから、多分こういうところなんだろうなって自分でも思って仕事をしていた。
鈴木さんに指摘されたけど、わざと大げさな笑顔を送ったら苦笑いしてそっとしておいてくれた。
流石、鈴木さんわかってらっしゃる……。
そんな感じの一週間だったおかげで、うじうじ悩むことなくあっという間に土曜日が来た。週の中頃に幸知から連絡が来て、十一時半に横浜駅に集合することになった。
お昼を一緒に食べて、その後はプラネタリウムを見に行くらしい。プラネタリウムなんて、子供の頃に行ったきりだ。
そんなお洒落な場所に行こうなんて誘ってくれた人今まで居なかった気がする。
行く前にどんなところなのか、検索して確認しようと思っていたのに……。本当に今週は仕事が忙しくてそんな暇が残念ながらなく、今日を迎えてしまう。
無駄に早く起きてしまったので、先に準備をしてしまおうと私は動き出した。
簡単に朝食を済ませると、溜まっていた洗濯物を片づけて掃除機をかける。一週間ずっと、閉めっぱなしだった窓も全部開けて部屋の空気も入れ変えた。
それだけで、何か気分もスッキリした気になる。
そして、洋服を着替えてメイクを施す。デートに行くために身だしなみを整えるのは、本当に久しぶりだ。
それだけで、ドキドキしてきてしまうのだから私はきっと単純なのだ。
だからなのか、着て行く洋服選びに物凄く時間がかかってしまった。迷いに迷った末、紺色のロングのワンピースを選ぶ。寒いとまずいので大判のストールを持って行く。
靴は、ショートブーツを履いてコーディネートは完成。髪型は、ハーフアップのお団子にしてちょびっと若く見えないだろうか? と鏡の中の自分に問いかける。
我に返って、恥ずかしくてそっと鏡から視線を外した。準備がやっとでき上がった頃には、もう家を出ないといけない時間になっていた。
早く起きたはずなのに、結局ギリギリになってしまい焦って家をでた。