ライブから一週間が経ってしまった。幸知には、連絡すると約束したのにまだ私は行動に移せずにいた。
 この一週間スマホを手に取って何度もメッセージを送ろうとしたが、どんな言葉を送ればいいのか考えあぐねていた。

 感想をメッセージにして送ればいいかと、長文を書いてみたり……。読み返して、今どきこんな長文をメッセージで送るか? と疑問に思い削除してしまう。
 会って感想を言うべきかとも思うが、菫さんの顔がちらついて会う勇気は出ない。そんなことを、この一週間ずっと繰り返してしまった。

 文化祭に行ったことで、このまま幸知と交流を続けて良いのか考えてしまった。そもそも、私と幸知は一体どんな関係なのだろうか……。
 言葉にしたら、知り合い以上友達未満といったところだろうか……。なんて微妙な関係なのだろう……。
 幸知は、私のことを「大切な人」だと言っていた。その意味を考えてみるが、答えを出したくない私がいる。

 こんな時に限って週末は予定がない。うじうじずっと考えていて、抜け出せないループにほとほと疲れてしまう。
 思い切って、七菜香や蘭に話を聞いてもらおうかと思ったが……。何となく、言われることがわかる気がして嫌だった。

 私がが欲しているのは、話を聞いてくれて「うんうん」って相槌を打ってくれるだけの人。だけど今現在、そんな友達は思いつかない。

 私は諦めて散歩に出ることにした。ここ最近、弘明寺の町探検をしていなかったので丁度いい。私は、さっそく出かける準備を始めた。

 準備が整い、家の鍵とスマホを鞄に入れ玄関を出ようとしたらスマホの着信が鳴った。見ると、スマホの画面に「鈴木さん」と出ている。鈴木さんからなんて珍しいとすぐに電話を取った。

「もしもし、藤堂? 休みの日に申し訳ない。今大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ。鈴木さんが電話してくるなんて珍しいですね」
「いや、本当に悪い。実はさ、月曜日から俺出張なんだけど、それに持っていかないといけない資料を忘れてて。その資料、もうできているかだけ教えてくれる?」

 鈴木さんから説明があった資料は、確かに作成を頼まれていたものだった。だけど、特に締切日を設けていなかったので急ぎの資料だと思わず、まだ中途半端に終わらせたままだった。

「ごめんなさい、急ぎだと思ってなくてまだできてないです……」
「いや、俺もすっかり忘れてて藤堂のせいじゃないから気にしないで。じゃあ、休みの日に悪かったな。また来週」
「待って下さい。鈴木さん、今会社にいるんですか? 私、今から行きますよ。その資料、表とか添付するもの間違えてて来週やり直せばいいやって中途半端なままなんです」
「でも、流石にそれは悪いよ」
「いえ、丁度暇していたところなんで! 夜おごってくれたらそれでOKです」

 普段の私なら、休みの日に会社なんて絶対に面倒くさいと思っていただろうけれど……。予定ができたことに嬉しくて、前のめりで鈴木さんに提案した。

「おいおい。何かテンションおかしくないか? そんな、高いものとか無理だぞ?」

 鈴木さんが、何か警戒している。

「そんなのわかってますよー。困った時はお互い様です! では、今から行きますので三十分くらいです。では」

 私は、鈴木さんの返事を待たずに通話終了ボタンを押した。休日に会社に行くのに、予定ができてとても嬉しい。
 ふふふふふふ。鈴木さんならきっと話を聞いてくれるはず。私は、さっきとは打って変わって心弾ませて駅へと向かった。

 ***********

 会社に着くと、休日なので表の出入り口は閉まっているため裏口へと向かう。休みの日でも、警備員は常駐しているようで社員証を出して中に入れてもらった。
 休業日だと、エレベーターも止まっているようで階段を使って自分のオフィスへと進む。社内の明かりも、必要最低限のみしか点いていないのでちょっと薄暗い。目的の階に着くと、明かりが点いている扉が目に付きドアを開けた。

「鈴木さーん、お待たせしました」

 私は、パソコンに向かっている鈴木さんを認めると声をかけた。

「藤堂、お疲れー。本当に悪い」

 鈴木さんが、私の方を向いて手を合わせて謝ってくる。

「いえ、丁度散歩でも行こうと家を出るところだったのでグッドタイミングでしたよ」
「なんだー、休みに散歩とは……。寂しいやつだな」
「鈴木さん? わざわざ休みの日に出てきてくれた部下に失礼では?」
「冗談だよ、冗談。本当に助かった。ありがとう」

 鈴木さんは、まずいと思ったのか真顔で言い直してくれた。ま、本当のことだから気にしてないけれど。

「では、さっそくやってしまいましょう」

 私は、自分のディスクに腰を降ろしパソコンの電源を入れた。パソコンが立ち上がってくるまで暫く待つ。鈴木さんは、邪魔したら悪いと思ったのか立ち上がった。

「コーヒーでも淹れてくるわ」
「ありがとうございます」

 私はお礼を言いパソコンに向き合い、急いで資料に手を付けた。広いオフィスの中は、私のキータッチの音だけが響く。
 余計なことは何も考えずに、頭の中は打ち込まなければいけない資料の内容で埋め尽くされている。頭は休日モードから、完全に仕事モードへと切り替わっていた。

「ふー。こんなもんかな」

 大体の枠組みが完成して集中力を一端切る。あとは、見直しをしておかしい部分がないか確かめるだけだ。

「いやー藤堂の集中力って凄いよな。俺が帰って来たの全く気付いてなかっただろ?」

 隣から鈴木さんの声がかかった。私は、横を見て鈴木さんが戻って来ていたことに今初めて気づく。

「えー、言って下さいよー。全然気づかなかったじゃないですか」
「いや、集中してたから声かけるの悪いなって思って。ちょっと冷めたけど、コーヒー飲んで」

 鈴木さんは、持って来てくれたコーヒーを私のディスクに置いてくれた。

「すみません。頂きます。そしたら、これ一度確認してもらっていいですか?」

 私は、鈴木さんに今完成した資料を送る。自分でも確認はするけれど、先に鈴木さんに見てもらった方がいい。

「了解。んじゃ、ちょっと休んでて」

 今度は、鈴木さんがパソコンに向かって真剣なまなざしになった。