何故、こんなことを? と思う反面、やはりと納得する自分もいて、圭一郎は少しだけ混乱していた。
その隙に乗じて、桃は手に持つ小型カメラを隠そうとする。
「動くな、桃」
「──ッ!」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。圭一郎の頭は冷えていた。
桃が今までで一番感情を出したからだ。憎しみの感情を。
圭一郎はデスクに向かい、桃に近寄ると小型カメラを持つ腕を掴んで少し捻った。
「うっ……!」
苦痛に顔を歪ませた後、それでも桃はキッと圭一郎を睨みつける。
どんどん冷えていく思考に従って、圭一郎はゆっくりと口を開いた。
「まさか、産業スパイのような真似をしているとはな……六条家の名が泣くぞ」
「そんなものはもうない! お前のせいでな!」
感情に任せた物言いだった。それまで人形のようだったのが嘘のようだ。
だが、悪くない。心が見えないよりは、たとえ憎悪でも感情を向けられた方がいい。
圭一郎は桃の腕を掴んだまま、逆の手でその顎を掴んで目を見据えた。
桃は怯んでいなかった。圭一郎を睨み返した瞳は炎が揺らめくように生き生きとしている。
その反応は、圭一郎の胸を震わせた。
「何故、こんなことをする?」
圭一郎は顎を掴んだ手にいっそう力を込めた。
桃は苦痛を抱えたまま、たどたどしくもはっきりと憎しみをこめて言う。
「ふ……復讐だ! みな、とに復讐、するんだ……!」
「あの時、うちが援助を絶ったことか?」
「そうだ! 湊が、助けてくれれば……お父様は──」
「……」
そうだ。確かにあの時湊家が手を差し伸べていれば、六条家は離散しなかったかもしれない。
少なくとも十二年前の圭一郎はそう思っていた。
だが、それを今蒸し返しても桃の怒りはとけないだろう。
圭一郎は掴んでいた手を離して桃を解放する。
逃げるか? 逃げるなら捕まえるだけだ。圭一郎は選択肢を与えたつもりだった。
だが、桃はその場にとどまった。
「逃げないのか?」
「逃げるもんか! まだ復讐は終わってない!」
「俺が追い出すこともできるが?」
「……追い出せるはずがない」
「何?」
意外な言葉に圭一郎が戸惑っていると、桃は強気な口調で言った。
「あんたはずっとあたしを探し続けていた。やっと現れたあたしを追い出すはずがない!」
「……」
二の句が出ない圭一郎をそのままに、桃は更に得意げに言ってのけた。
「あんたはまだあたしに未練がある! 幼稚なおままごとだったのに、バカみたいにまだ六歳のあたしを想ってるロリコン野郎なんだから!」
「……」
どこからつっこんだら良いのだろう?
桃が俺の胸の内を知っていることか?それとも俺がずっと桃を探しているのを知っていることか?
いや、そんな事よりも大事な確認が今、できたのでは?
「では、やはりお前は桃なんだな?」
「そうだよ、六条桃だって最初から言ってんだろ!」
ああ、そうか。本当に桃だった。
圭一郎にとっては他の事などはどうでも良かった。
桃だ。今、ここにいるのは本当に桃なのだ。
「──!」
嬉しさのままに圭一郎は桃を抱きしめた。
「ちょ──ッ!」
桃は突然の出来事にたじろいだ。だが圭一郎は抱きしめる力を緩めなかった。
「やっと……」
「離し──」
「やっと戻ったのか、桃……!」
圭一郎はその髪に顔を埋める。桃の匂いがした。
ずっと、ずっとこの感触が手に戻ってくる日を夢見ていた。
「あ……、にい──」
少し桃が体の緊張を解いた気がした。
圭一郎はずっとこのまま時が止まればいいと思った。
その隙に乗じて、桃は手に持つ小型カメラを隠そうとする。
「動くな、桃」
「──ッ!」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。圭一郎の頭は冷えていた。
桃が今までで一番感情を出したからだ。憎しみの感情を。
圭一郎はデスクに向かい、桃に近寄ると小型カメラを持つ腕を掴んで少し捻った。
「うっ……!」
苦痛に顔を歪ませた後、それでも桃はキッと圭一郎を睨みつける。
どんどん冷えていく思考に従って、圭一郎はゆっくりと口を開いた。
「まさか、産業スパイのような真似をしているとはな……六条家の名が泣くぞ」
「そんなものはもうない! お前のせいでな!」
感情に任せた物言いだった。それまで人形のようだったのが嘘のようだ。
だが、悪くない。心が見えないよりは、たとえ憎悪でも感情を向けられた方がいい。
圭一郎は桃の腕を掴んだまま、逆の手でその顎を掴んで目を見据えた。
桃は怯んでいなかった。圭一郎を睨み返した瞳は炎が揺らめくように生き生きとしている。
その反応は、圭一郎の胸を震わせた。
「何故、こんなことをする?」
圭一郎は顎を掴んだ手にいっそう力を込めた。
桃は苦痛を抱えたまま、たどたどしくもはっきりと憎しみをこめて言う。
「ふ……復讐だ! みな、とに復讐、するんだ……!」
「あの時、うちが援助を絶ったことか?」
「そうだ! 湊が、助けてくれれば……お父様は──」
「……」
そうだ。確かにあの時湊家が手を差し伸べていれば、六条家は離散しなかったかもしれない。
少なくとも十二年前の圭一郎はそう思っていた。
だが、それを今蒸し返しても桃の怒りはとけないだろう。
圭一郎は掴んでいた手を離して桃を解放する。
逃げるか? 逃げるなら捕まえるだけだ。圭一郎は選択肢を与えたつもりだった。
だが、桃はその場にとどまった。
「逃げないのか?」
「逃げるもんか! まだ復讐は終わってない!」
「俺が追い出すこともできるが?」
「……追い出せるはずがない」
「何?」
意外な言葉に圭一郎が戸惑っていると、桃は強気な口調で言った。
「あんたはずっとあたしを探し続けていた。やっと現れたあたしを追い出すはずがない!」
「……」
二の句が出ない圭一郎をそのままに、桃は更に得意げに言ってのけた。
「あんたはまだあたしに未練がある! 幼稚なおままごとだったのに、バカみたいにまだ六歳のあたしを想ってるロリコン野郎なんだから!」
「……」
どこからつっこんだら良いのだろう?
桃が俺の胸の内を知っていることか?それとも俺がずっと桃を探しているのを知っていることか?
いや、そんな事よりも大事な確認が今、できたのでは?
「では、やはりお前は桃なんだな?」
「そうだよ、六条桃だって最初から言ってんだろ!」
ああ、そうか。本当に桃だった。
圭一郎にとっては他の事などはどうでも良かった。
桃だ。今、ここにいるのは本当に桃なのだ。
「──!」
嬉しさのままに圭一郎は桃を抱きしめた。
「ちょ──ッ!」
桃は突然の出来事にたじろいだ。だが圭一郎は抱きしめる力を緩めなかった。
「やっと……」
「離し──」
「やっと戻ったのか、桃……!」
圭一郎はその髪に顔を埋める。桃の匂いがした。
ずっと、ずっとこの感触が手に戻ってくる日を夢見ていた。
「あ……、にい──」
少し桃が体の緊張を解いた気がした。
圭一郎はずっとこのまま時が止まればいいと思った。