『文実です
夏休みに入りましたね。
文化祭まで残り50日。
文実も日々準備に追われています。
ここから本題です。
学年別クラス対抗企画ですが、2年生はミスコン対決に決定いたしました!
ということでお願いです!
2年生の各ホームルームから、ひとりずつ、ミスコン参加者を出してください。
SNSでの宣伝の都合上、参加締め切りは7月31日です。
よろしくお願いします!
文実より』
↑の文面が、クラスの連絡用SNSで回ってきたのがおととい。
『誰か立候補者はいませんか?』
文実の問いかけに、全員既読スルー。
『あした締め切りなので、あみだくじで決めさせてもらいます。よろしくお願いします』
クラス全員が強制参加になったSNS上のあみだくじ。
40人なので、確率は40分の1。
(ま、たぶんないよな……)
家のベットに寝っ転がり、スマホをポチポチし、あみだくじの「結果を見る」ボタンを押す。
ミスコン参加者――「奈良崎 夏音」
(――んっ……!?)
おもわず跳ね起きる。
お、お、おれじゃん!?
ほぼ同時に花菱から個人メッセージが来る。
『ごめん――くじ、おまえに当たっちゃったな』
花菱は文実なので、このあみだくじを引いたのも彼だ。
『まぁ……でもくじだからしかたないよ』
『ホントすまん。大丈夫? やってくれる?』
『いいよ』
『サンキュー! 委員長に報告しておくよ。出し物をどうするか、こんど相談しよう』
「OK」のスタンプを送信する。
にしても……
(ミスコンかぁ――)
何着ればいいんだ?
セーラー服とか、メイド服とか、チャイナ服とか?
花菱に頼りきりになるのもよくないよな。
花菱が勉強を教えてくれたおかげで、おれの成績はぐんぐんうなぎのぼりになった。
花菱は、教えるのがほんとうに上手だった。
テスト前、教室で一緒に勉強して――
おれに教えてばかりでだいじょうぶなのかな、と思ったが、こないだのテストで花菱は学年1位だった。
(なんだこいつ――天才なのか?)
花菱は勉強ができることも、水泳で県の代表に選ばれたことも、まったく自慢したりしない。
その完璧なルックスもひっくるめて全部、彼にとってはなんてことないことなんだろう。
せめてものお礼に、おれは毎日せっせと花菱にお弁当を作った。
飽きないよう、かならず一品はちがうおかずを入れることにして、「彼に作る365日おべんとう」みたいな本を買って、がんばった。
そのかいあってか、
『うわっ、めっちゃうまい! 奈良崎、おまえ天才な!』
花菱はバクバク弁当を食べてくれた。
昼休み。
机を向かい合わせお弁当を食べるひととき。
口の端についたごはんつぶをとって笑う花菱に、おれも自然に笑顔になる。
夏休みが終わって、新学期になっても、こんな日がずっと続けばいいな――そう思っていた。
□□□□□
――翌日。
学校の正門近くで、花菱は、文化祭用の入場門を作っていた。
うちの学校は毎年、ドラマの大道具みたいな大きな門を作る。
今年の門は、外国の城がモチーフらしい。
「……おっす」
ヘルメットをして足場にのぼっていた花菱に近づき、声をかける。
足場から下りてきた花菱はヘルメットを脱ぎ、
「昨日はありがとな」
と笑う。
「も……門隊――入ったの?」
門隊とは、門作りの有志参加者のことだ。
「いや。今年は夏休みに短期留学するヤツが多くて、人手が足りないみたいでさ。門隊長から文実にヘルプが入ったんだ。だからできる連中でいま基礎作り」
花菱は、首にかけていた文化祭デザインタオルで汗を拭く。
その日は朝から30度超えの暑さだった。
「そっか……おつかれ。暑いから熱中症気をつけろよ」
「ん。――奈良崎は? 部活?」
「ああ、もうすぐ県大会だから」
「おっ、グリー県大会行ったんだな。おめでとう」
「おかげで毎日部活。今日も夕方まで練習だよ。暑くていやんになる」
音楽室はエアコンがなく、大きな扇風機しかない。
「あそこ灼熱地獄だもんなぁ……」
同じ音楽選択なので、音楽室を利用する花菱は、わかる、というようにうなずく。
「おーい、はなびしぃ~。ちょっとこっち来てくれよ!」
足場によじのぼった門隊に声をかけられ、「わかったー!」と大声で返事をする。
「じゃ、またな。がんばって」
と手を振って行こうとしたとき、
「あっ、ならさきっ」
と呼びとめられ、
「ミスコンのことだけど――ちょっといいこと思いついたんだ。よかったら今度うちに来ないか?」
といわれる。
「えっ……!?」
「またあとで連絡する。部活がんばってな!」
ヘルメットを被った花菱が足場をひょいっと駆け上がる。
その大きな背中の向こうには、8月の青空がどこまでも広がっていた。