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 花岡とよく話すようになって、いくつか気づいたことがある。


 「マリーゴールドって春の花なんだ。てっきり夏かと思ってた」
 花岡の実家の店で配っているらしいアロマの小冊子をパラパラ眺めながら、橘は何気なく呟いた。
 「?」
 「ほら、有名な曲で夏がどうとか言ってるから」
 「……」
 全くピンと来ない様子で目を白黒させる花岡に、橘はまさか…と思い尋ねる。
 「――もしかして、全然音楽とか詳しくない?」
 「……全く詳しくないですね……」
 「通学の時とか聴かない?」
 「学校まで徒歩15分だし……。結構、外の音聞きながら歩くのも好きかな」
 聞くともなしにイヤホンを突っ込んでばかりの自分とは大違いで、橘は目から鱗だった。
 「橘くんは音楽好きなんですか?」
 「特別詳しくはないけど、このバンドの曲とか好き」
 花岡にイヤホンを片耳渡す。花岡は一瞬びっくりした顔をしたが、そっとイヤホンを耳に当てて聞いてくれた。
 花岡に自分の好きなものを知ってもらえるのが、なんだか嬉しいこと。

 
 「橘じゃん、今帰り?」
 「や、友達待ってる」
 「これから南高の女子と飯行くんだけど来ねー?その友達連れてきてもいいよ」
 職員室で教師と話し込んでいる花岡を昇降口で待っていると、クラスメイトに話しかけられた。
 「今日はいいや」
 「今日は、ってか最近来ないじゃん」
 俺らより楽しいこと見つけたんかよーとからかい半分に言われ、橘は顎に手を当てた。
 「……確かに、そうかも」
 ファミレスでだべったりカラオケで騒いだり。決してつまらなくはないけれど、昨日と今日を見比べて区別がつかない日々だった気がする。
 「え、何、のろけ?」
 「違うし、南高の子待ってるんじゃないの」
 橘が慌ただしく去っていくクラスメイト達を見送っていると、後ろからか細い声で話しかけられた。
 「……良かったんですか?」
 「うわっ、びっくりした」
 橘は思わずたじろぐ。振り向くと、花岡が心配そうな顔をして立っていた。
 「お友達の誘い……」
 「花岡と帰るほうが楽しいし」
 ――言ってから少し恥ずかしくなったが、紛れもない本心だ。
 昨日と全く違う今日。毎日が、ちゃんと更新されている気がすること。
 


 
 「お、おつかれ〜」
 廊下で花岡とすれ違う時、橘は軽く手を挙げる。最初は会釈だけだったのが、小さな声で返してくれるようになり、最近は笑いかけてくれるようになった。
 真顔で歩いていた花岡が、それこそ花が咲くように微笑んでくれるのが少し……いや、かなり嬉しいこと。
 そしてその顔を、可愛いと思ってしまっていること。