ベンチに腰掛けた咲良に倣い、隼人も隣に腰を下ろした。

「うちの神社は代々、鳥居家の娘が巫女舞を奉納するんだ。でも……知ってると思うけど、うちは男三兄弟だろ? 父親似の兄貴二人と違って、俺は母親似だから違和感ないって言われて……、小学生の頃からやらされてるんだ」
「嫌なのか?」
「最初は嫌だった。小学校でもクラスメイトに揶揄われたりしたしな。でも、巫女舞を舞うのは好きだよ。今は、好きでやってるんだ」
「じゃあ、なんで……」

なぜ、隼人には巫女舞を夏祭りで奉納することを言わなかったのか。夏祭りは家の手伝いで裏方をやる、隼人は咲良からそう聞いていたのだ。隠した理由を、どうしても聞きたかった。

「自分でもなんでか、よくわからないけど……、恥ずかしかったんだ……。化粧をされて巫女の格好をした俺を、隼人に見られるのが、恥ずかしかった……」
「他の人はよくて、なんで俺だけダメなんだ?」

畳みかけるように問う。隼人のことが”嫌い”という感情が含羞を生むとは思わなかった。むしろ、それとは違う感情が、咲良の中にあるのではないか。そんなことを期待する気持ちが生まれ、自分でも少し戸惑う。

「だから……、理由はわからないって……」

上気した頬。逸らされた視線。感情の答えを知る表情だ。

ぎゅっと固く握られ、膝に置かれた拳を、気付いたら握っていた。驚いた咲良の視線が、再び隼人に戻ってくる。その視線を逃すまいと、吐息がかかりそうなほど近くに顔を寄せた。