互いの足が止まる。息が上がっていて、すぐには言葉がでない。

「はあ……はあ……」
「はあ……、はあ……、はあ……」

咲良の腕を掴んだまま、乱れた呼吸を整えた。しばらくして先に口を開いたのは、隼人の方だ。

「さく……ら、なんで……、走り出したんだ……」

こちらに視線を向けない咲良の横顔に問う。

「わからない……けど、隼人には見られたくなかった……」
「なんで? なんで俺だけダメなんだよ。すごく綺麗で感動したぞ」

訴えるように伝えると、咲良の顔に朱が走る。

「綺麗って……。気持ち悪いの間違いだろ。あれは本来女性が舞うものなんだ」

なぜそこまで自分を卑下するのかわからない。男性とか女性とか関係なく、あれは大勢に自慢していいくらい美しかった。俯く咲良の頬にそっと手を添えると、びくりと驚いた顔がこちらに向いた。

「な……に……?」

困惑の色を滲ませる大きな瞳。
視線を合わせるために、咲良より背が高い隼人が少し俯く。

「本当に綺麗だった。この世のものじゃないくらいに」
「……っ、大げさだな……! 東京にいた時もそんな風に女の子口説いてたわけ?」

なぜか少しむっとした表情になった咲良に、隼人は続ける。

「口説いてないよ。それよりなんで俺に隠してたんだよ」
「それは……その……。あ、あの……ちょっと来て……」

そう言ってさらに奥へと行こうとする咲良のあとを追う。少し進んだ所から横道にそれると、ぽっかりと木々がなくなった広場に出た。

劣化していて読みづらいが、月見台と書かれた案内板と、古い木製のベンチだけが置いてあった。絶景とはいかないが、ぽつりぽつりと町の灯りが広がった夜景と、月見台という名に相応しく、木に遮られることなく星空が見える。