咲良に会わなくては、なぜか直感的にそう思った。会って話しをしたい。ただそれだけ。

教えられた通り、社務所まで辿り着くと、神職や法被を着た町内会の人たちが忙しなく出入りをしていた。邪魔にならない位置でそっと入り口を見守っていると、しばらくして咲良が出てきた。化粧を落とし、神前で額隠さないように上げていた前髪も今は下ろされている。先ほどまで身に着けていた緋袴ではなく松葉色の袴に履き替えていて、見慣れた学生服姿ではないが、いつもの咲良だった。

「咲良!」
「……っ、隼人……!」

隼人の顔を見た瞬間、咲良は突然走り出した。

「さく……っ」

走りにくそうな草履と袴姿だったが、咲良は走るのが早かった。さすが神社の息子で陸上部……と冷静な頭で納得しつつ、隼人もそのあとを追いかける。バスケ部を舐めてもらったら困る。


迷わず進む咲良の背中を追っていると、逃げているのではなくどこかに向かっているような気がしてきた。手が届くところまで追いつかずに一定の距離を保ってあと追い続ける。

神社の裏手は小高い丘になっていて、まるでトンネルのように朱色の鳥居が続いていた。鳥居に沿うように下げられた提灯が、辺りをぼんやりと照らしているが、辺りに鬱蒼と生い茂る木々の先は暗闇だ。

立ち並ぶ鳥居を迷わず抜けていく咲良の背中は、この世のものではないと錯覚しそうになるほど幻想的で神秘的だった。一度見失ったら消えてしまいそうで、少しずつ気持ちが焦り始める。

隼人はさらに足を速め、白衣の袖から伸びる細い腕を掴んだ。