過去と今の違いに心臓が痛む。
唇をかみしめていないと、涙腺が緩みそうになる。
霞くんが僕から距離をとろうと後ずさりした直後だった。
重たい空気を一掃するように、流瑠ちゃんが笑い声をあげたのは。
「アハハ、何その幼稚な言い合い。低レベルすぎなんだけど」
お腹を押さえながら笑う流瑠ちゃんの目には、うれし涙らしきものが光っている。
「小5の時も二人が言い合いしてるのを見たんだよわたし。ダブルスの試合で二人が負けちゃったあと、自分のせいで試合に負けちゃったってお互い譲らなくて。テラっちは霞くんのプレイは完ぺきだった、全部僕のせいって泣いてたし。霞くんはテラっちがエースを決められるように相手を誘導できなかった、自分が未熟すぎだから負けたって謝ってて。ほんとどっちも自分のせいって引かなくて。テラっちはわんわん泣いて、霞くんはごめんごめん言いながらテラっちを抱きしめて。その時思ったんだ。お互いが相手のことを大事に思っている素敵なカプだなって」
流瑠ちゃんは目じりの涙を指で拭い
「私を腐女子にした責任、ちゃんととって欲しいなぁ。でもまぁ、妄想だけでニマニマできる幸福体質に変えてもらったし、二人には感謝しているけどね」
ポニーテールを楽しそうに揺らしている。
「あっごめんごめん、私が最初に傘を渡す相手を間違えたね。テラっちに渡しちゃダメじゃんね。真っ赤なあいあい傘は攻めに持ってもらわないと、キュンが薄まっちゃうんだった」
テヘっと舌をだした流瑠ちゃんは、僕から傘を取りあげると
「てらっちを守ってあげてね、カスミ王子。あっ、なりきるのは王子じゃなくて騎士でもいいよ。私的にはどっちもおいしいから」
表情筋をだらしなく緩めながら、傘を霞くんに無理やり押しつけた。
理解不能な宇宙人並みのマシンガントークに圧倒された霞くんは、放心状態で受け取っている。
「はい、二人ともくっついて。体をぶつけあわないと大事な人が濡れちゃうよ」
強引な流瑠ちゃんに横腹を押されたせい、僕の右半身の側面が霞くんの左半身に食い込み焦る。
近いを通り越してゼロ距離になっちゃったんですけど。
心臓がバクついて息苦しい。
全細胞が生き返ったような、意味不明な生命力まで感じてしまう。
霞くんの体温は心地いい、心地よすぎだよ。
でもでも体がくっついたままなのは、気まずさの極みだし。
霞くんはこの状態をどう思っているかわからないし、確認するのも怖いし。
僕は今、ものすごい勢いで羞恥心ゲージがたまっている。
流瑠ちゃんのおせっかいに、はたはた困りはててしまっている。
それは確か。
けれど正直にいうと流瑠ちゃんへの感謝もあって、それなりの幸福感も芽生えているんだ。
恥ずかしさで霞くんを見上げることはできないけれど、布越しに触れ合う腕がくすぐったい。
霞くんから離れたくない。
ううん、恥ずかしいから逃げ出したい気持ちもあるんだけど、今離れてしまったら二度と霞くんに触れることができないんじゃないかと怖くなってしまって、できればこのままでいたいなって。
胸キュンで暴れる僕の心臓が耐えうるまで、ずっとこのままで……できれば永遠に……