過去回想から意識を現実に戻す。
今はお昼休みです。
お弁当は食べていません。
ストレスで胃が膨らんでいて、食べ物が入り込む隙間はないからよしとします。
とりあえず誰か、僕を助けてくれませんか?
テニスコートの周りを取り囲むカスミソウ推しの女子たちの視線が突き刺さって、痛いこと痛いこと。
奏多くんにバックハグをされたからといって、霞くんから奏多くんをとったりしないからご安心をと女子たちに言って回りたい。
逆もしかり。
霞くんに嫌われている事実を重く受け止め、僕は初恋を諦めたんです。
僕にとっても霞くんと奏多くんが推しカプなんです。
霞くんと僕、奏多くんと僕は、僕にとって地雷カプなんです。
僕の代わりに霞くんとペアを組んでテニスの試合に出てもいいよというクラスメイトが現れたら、病みぎみのメンタルが回復できると思うのですが……
テニスコートから今すぐ逃げられたらと切に願う。
薄曇りの空を見上げると、あんなにギラギラだった太陽が雲に隠れていた。
僕の周りを雨雲が取り囲んでくれたら、太陽みたいに雲隠れすることができるのにな。
逃げたい。
教室にこもりたい。
でも熱血ワイルドの奏多くんは、なぜか僕を逃がしてはくれない。
「太陽出てないし、これはもういいよな」と僕の頭からキャップを奪うと、自分の頭にキャップをかぶせて僕の腕をガシリと掴んだ。
そして霞くんにボヤキをひとつ。
「カスミ、オマエはもう教室戻っていいわ」
「え?」
「テラセに興味が湧いた。俺一人でこいつをビシバシ鍛えあげることに決めたから」
目を見開いて固まる霞くんを置き去りにして、僕の腕をぐいぐい引っ張っていく奏多くん。
「ちょっと奏多くん、僕をどこに連れて行く気ですか?」
強制連行って言葉がぴったりなほど、僕は強引に引きずられていますが……
「なぜ俺に敬語?」
だって奏多くんは、上から物申すときの威圧感がすごくて……
「壁を感じる。鳥肌立つからやめろ」
「あっうん、わかったよ」
これ以上にらまれたくないから、言うことを聞くよ。
我が道を行くがごとし。
まっすぐ前だけを見て進む奏多くんの前に、両手を広げた霞くんが立ちはだかった。
僕の足が歩みをやめ、僕の口から安どのため息がこぼれる。
「奏多、萌黄くんが困ってるでしょ。今日は3人でテニスの練習を……」
「ヤダ、カスミはぜってーこいつを甘やかすから」
「球技大会は部活じゃないんだ。楽しく練習するのが一番だと思うけど」
「あと数日しかないってわかってんの? こいつを鍛えれる日。んなら、ビシバシ行くしかねーよな?」
「自分にも他人にも厳しい奏多一人にコーチを任せたら、萌黄くんのメンタルが壊れちゃう」
「心配するなって、ちゃんと飴も用意する」
「そういうことじゃなくて……」
「テラセは俺がもらってく。カスミは食堂で優雅に紅茶でも飲んでろ」
奏多くんの手のひらが、僕の腕をさらに強く掴んできた。
また連れ去られちゃうんだ。
ヘルプメッセージを瞳に託し、霞くんを見あげる。
でもすぐに後悔が湧いた。
いつも優雅に微笑んでいる霞くんの顔から、一切の笑みが消えていたから。
悔しそうに拳を握り、きつく唇をかみしめる霞くん。
瞳が悲しげに揺れている。
こんなに痛々しい表情を見たのは、あの時以来かも。
僕が火の中に飛び込んだ小6の……
やめて奏多くん、これ以上僕にかまわないで。
なんで霞くんが怒っているかわかるでしょ?
霞くんはね、奏多くんと二人だけになりたいんだよ。
僕が邪魔なの。
彼が抱く怒りの名は嫉妬なの。
僕の腕を掴んでないで、霞くんをハグしてあげて。
オマエだけが大事だって、甘い言葉をささやいてあげて。
今はお昼休みです。
お弁当は食べていません。
ストレスで胃が膨らんでいて、食べ物が入り込む隙間はないからよしとします。
とりあえず誰か、僕を助けてくれませんか?
テニスコートの周りを取り囲むカスミソウ推しの女子たちの視線が突き刺さって、痛いこと痛いこと。
奏多くんにバックハグをされたからといって、霞くんから奏多くんをとったりしないからご安心をと女子たちに言って回りたい。
逆もしかり。
霞くんに嫌われている事実を重く受け止め、僕は初恋を諦めたんです。
僕にとっても霞くんと奏多くんが推しカプなんです。
霞くんと僕、奏多くんと僕は、僕にとって地雷カプなんです。
僕の代わりに霞くんとペアを組んでテニスの試合に出てもいいよというクラスメイトが現れたら、病みぎみのメンタルが回復できると思うのですが……
テニスコートから今すぐ逃げられたらと切に願う。
薄曇りの空を見上げると、あんなにギラギラだった太陽が雲に隠れていた。
僕の周りを雨雲が取り囲んでくれたら、太陽みたいに雲隠れすることができるのにな。
逃げたい。
教室にこもりたい。
でも熱血ワイルドの奏多くんは、なぜか僕を逃がしてはくれない。
「太陽出てないし、これはもういいよな」と僕の頭からキャップを奪うと、自分の頭にキャップをかぶせて僕の腕をガシリと掴んだ。
そして霞くんにボヤキをひとつ。
「カスミ、オマエはもう教室戻っていいわ」
「え?」
「テラセに興味が湧いた。俺一人でこいつをビシバシ鍛えあげることに決めたから」
目を見開いて固まる霞くんを置き去りにして、僕の腕をぐいぐい引っ張っていく奏多くん。
「ちょっと奏多くん、僕をどこに連れて行く気ですか?」
強制連行って言葉がぴったりなほど、僕は強引に引きずられていますが……
「なぜ俺に敬語?」
だって奏多くんは、上から物申すときの威圧感がすごくて……
「壁を感じる。鳥肌立つからやめろ」
「あっうん、わかったよ」
これ以上にらまれたくないから、言うことを聞くよ。
我が道を行くがごとし。
まっすぐ前だけを見て進む奏多くんの前に、両手を広げた霞くんが立ちはだかった。
僕の足が歩みをやめ、僕の口から安どのため息がこぼれる。
「奏多、萌黄くんが困ってるでしょ。今日は3人でテニスの練習を……」
「ヤダ、カスミはぜってーこいつを甘やかすから」
「球技大会は部活じゃないんだ。楽しく練習するのが一番だと思うけど」
「あと数日しかないってわかってんの? こいつを鍛えれる日。んなら、ビシバシ行くしかねーよな?」
「自分にも他人にも厳しい奏多一人にコーチを任せたら、萌黄くんのメンタルが壊れちゃう」
「心配するなって、ちゃんと飴も用意する」
「そういうことじゃなくて……」
「テラセは俺がもらってく。カスミは食堂で優雅に紅茶でも飲んでろ」
奏多くんの手のひらが、僕の腕をさらに強く掴んできた。
また連れ去られちゃうんだ。
ヘルプメッセージを瞳に託し、霞くんを見あげる。
でもすぐに後悔が湧いた。
いつも優雅に微笑んでいる霞くんの顔から、一切の笑みが消えていたから。
悔しそうに拳を握り、きつく唇をかみしめる霞くん。
瞳が悲しげに揺れている。
こんなに痛々しい表情を見たのは、あの時以来かも。
僕が火の中に飛び込んだ小6の……
やめて奏多くん、これ以上僕にかまわないで。
なんで霞くんが怒っているかわかるでしょ?
霞くんはね、奏多くんと二人だけになりたいんだよ。
僕が邪魔なの。
彼が抱く怒りの名は嫉妬なの。
僕の腕を掴んでないで、霞くんをハグしてあげて。
オマエだけが大事だって、甘い言葉をささやいてあげて。