今、翔くんがずっと夢の世界のような言葉ばかり言っている。そして、ぎゅっとしてみる?とまで。

「う、うん。してみる!」

 動揺しながら僕はそう答えた。

 僕が返事をすると、翔くんにふさっと包まれた。翔くんは僕よりも結構大きいから、完全に僕が包み込まれている状態になっている。例えるなら風よけや雪よけのような、屋根のような感じかな?

「手を繋ぐよりもあたたかい」
「俺も、あたたかい」

 ドキドキしながら僕は今、翔くんに包まれている。
 身体が暖かいし、気持ちも温かい。
 全部があたたかい――。

 本当にドキドキだけど、幸せな気持ちになってきた。

――本当に翔くんのことが、好き。

 しばらくすると「バスが来た」と、翔くんは僕から離れた。遠いところにあるバスが見えた。

「俺、柚原のこと、好きになったかもしれない」

 翔くんが僕を、穴があくほど見つめてきた。
 翔くんの言葉と視線に、僕は耐えられなくなってくる。

 耐えられなくなってきたのは、照れる気持ちが大きくなってきたから。

「柚原は、俺のことをどう思っているの?」

 ストレートに翔くんは聞いてくる。
 翔くんはいつも自信がありそうな雰囲気をしていて、そこが翔くんの恰好よいところのひとつ。今日は特に、とても自信が溢れているようにみえた。

「僕も、僕は昔から翔くんが大好きだよ」

 翔くんはふっと笑った。
 そのタイミングでバスが来て僕たちの目の前で止まる。自分が放った言葉に対してもドキドキしてきた。

「柚原、とりあえず隣に座ろうか」
「うん」

 バスの中ではいつも離れて座っていた。
 翔くんが先にバスに乗りこみ前の席へ、僕は翔くんから離れて後ろの方で座っていた。そして翔くんの背中を見つめる日々で。

 今この時間で、翔くんとの距離がすごく近くなった気がする。

 一緒に一番後ろの席に座った。
 座った瞬間、翔くんと目が合ったから笑顔を無理やり作った。

 翔くんと目が合っただけで、いつもよりもドキドキしてきて、上手く笑うことさえできなくて。微笑みたかったけれど多分今、不自然なくらいにすごく笑顔がはにかんだと思う。

 翔くんも今、はにかんでいる気がする。

 僕たちはその日からバスの中で隣に座るようになった。バスの中は暖かいのに、そこでも手を繋ぐようにもなった。今まで僕たちが繋がれる理由は、寒いからだったけれど、気温は一切関係なくなった。

 ふたりしかいない場所では、こっそりギュッと抱きしめ合うようにもなって。

 翔くんと繋がれるたびに、あたたかくなる。
 僕の、僕たちの幸せな時間が増えた――。


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