いつものようにバス停で柚原と会う。

 「おはよう」

 まずはいつものように、クールに話しかけた。

「おはよう」と、柚原もいつも通り挨拶を返してくれた。

 柚原に会うと、手を繋ぎたいから手袋を渡したくない気持ちが込み上げてくる。
 でも渡さないと、柚原のばあちゃんにバレるだろうし。朝は渡さないで、バスの中か帰りか……?

 考えていると柚原は自分の手に息をかけ始めて、俺にアピールしてきた。

「手袋、ないの?」
「うん、忘れた」
「またか、よく忘れるね?」

 いつも通りに何も知らない感じに、手袋を片方貸すと、柚原は俺から遠い方の手に手袋をはめ「また、ポケットも貸して?」と言ってきた。

「いつも手袋を鞄に入れたと思って、結局入れ忘れちゃうんだよね……どうしてだろう」
「どうしてだろうな?」

 次の言葉がみつからない。
 ふたり無言でただバスが来るのを待っている。

 このまま柚原が手袋をわざと忘れ続けていたら、本当にコートにポケットをつけられそうだ。
 それに、直接柚原から気持ちを聞きたくなっていて、心がムズムズしていた。何か、前に進めるきっかけを自分から柚原に――。

「柚原は、俺と手を繋ぎたいの?」

 直球で言葉を投げてみた。

「えっ?」

 柚原はまばたきを細かく何回もした。
 反応を見て、言わなければ良かったなとも思う。だけど――。

「俺も同じこと思ってるから」

 ポケットの中にある柚原の手をギュッと強く握った。柚原は呆然とした様子で何も言わない。

 ちょっと気まずい雰囲気になってきたか?
 ますます言わなければ良かったと思う気持ちが積み上がってきた。

「いや、何で急にこんなこと言ったのかというと、さっき柚原のばあちゃんと偶然会ってさ、これ」

 俺のコートの、柚原から遠い方のポケットに入っていた手袋を出して渡した。渡してしまった――。

「あ、ありがとう」
「いや、お礼を言うならばあちゃんに言いな? 柚原のばあちゃんからこれを預かったんだ。柚原が手袋を忘れた日の学校から帰ってきた時は柚原の手が赤くて、風邪ひかないか心配だって言ってたし」
「そうだったんだ……ばあちゃん心配させちゃった……」
「これからも忘れるのが続きそうならコートにポケットつけるとも言ってた」
「そ、それは……絶対に嫌だ」

 俺は柚原をじっと見た。

「柚原が手袋を忘れていない日も、手を繋いでいい?」

 クールな自分を装ってはいるが、ひとこと言うのにもかなり心臓がバクバクと大きな音をたてている。どう返事が来るんだろうか。

「いいけど、でも何で? 手袋してたら寒くはないよね?」
「だから、俺も柚原と手を繋ぎたいんだって」

 柚原は、はっとした表情をした。

「あと、もっと寒い日には柚原を抱きしめたりもしたい」
「……僕はどうすればいいの? 憧れていた翔くんにそんな言葉を言われるなんて」
 
 眉を八の字にして困り顔になりながら、視線をあちこちに揺らす柚原。

「じゃあ、とりあえず寒いからぎゅっとしてみる?」

 柚原の気持ちを知っているから、どんどん俺の言葉はエスカレートしていく。さすがに今のは言い過ぎだろうと、自分自身にどん引きした。

「う、うん。してみる!」

 断られるかと思ったらまさかの「してみる」が――。