こうやって、キミの手を握りたくて。

 手袋忘れたフリをした。
 ポケットのない冬コートを買った。

☆。.:*・゜


 僕は北海道のとある田舎に住んでいる。
 この街は雪の量が多い。

 前日どんなに家の前の除雪を頑張っても、一晩たてば、腰くらいまで深く積もっていることもある。

 高校二年生の僕は、毎日バス通学をしている。

 家から学校までは一時間ぐらいかかり、バスも二時間に一本しかない。しかも雪道が原因で、予定通りの時間にバスはこない。だいたい遅れてくる感じ。

 他の生徒たちはもっと学校の近くの街から通っている。このバスに乗るのは僕と家が近い、幼なじみの八木 翔(やぎ しょう)くんだけ。

 行きも帰りも、彼と一緒にバスを待つ。
 実はこの時間が愛おしい。



 潰れた商店の屋根の下。

 雪が当たらないようにしながらふたりでバスを待っている。

 口元に手を当てて息を吹きかける。
 ちらっと横を見ると、隣にいる翔くんと目が合う。

「手袋、今日もないの?」
「うん、忘れた」
「またか、よく忘れるね?」

 もう何回も忘れていて、そのたびに翔くんが黒くて恰好よい手袋を片方貸してくれる。そしてその手袋は、翔くんから遠い方の僕の手に。

「また、ポケットも貸して?」

 多分、こんな会話は5回目かな?

 手袋をしてない手は翔くんのコートのポケットの中。翔くんも手袋がない方の手はポケットの中に。

 僕の手は、翔くんのあたたかい手をぎゅっと握りしめている。

 手を繋いでいる時、翔くんはこっちを見ないよね?

 僕は見上げ、彼の赤く染まる耳を眺めた。
 そんな色してるのは寒いから?

 それとも――。

***