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「マジで! アイツ天才じゃね?」

 食堂の喧騒のなか、そんな声が耳についた。

 天才。

 よくもまあ軽々しくそんな言葉をつかえるものだ。
 天才というのは、そんな軽いものではないだろうに。
 少なくとも大人であれば、その言葉の重さを知っているはずだ。

 ここは大学。
 わたしたちは大学生。
 先ほどたわ言をほざいていた金髪の輩もきっと大学生。

 大学生はある意味でもう大人だ。
 大人になってしまっている。

 わたしたちは地元や高校にいろいろなものを置いてきている。

 夢や希望。
 拭えない恥の記憶。
 ずっと友だちだよと書かれた卒業アルバム。
 また連絡するねといったまま音信不通の元・同級生。
 ショコラ・オランジュみたいな恋。
 自分が天才であるという可能性。

 そうしたあれやこれやを置いて、わたしたちは大学に来ている。