「僕が個人的に、恋愛相談に乗って頂いていたので……」

「……ああ、そっか。彼女とは大学の先輩後輩だって言ってたよね」

 彼が個人的に誰と話そうと、それは自由だ。プライベートにまで口を出す権利はわたしにもないから。でも、秘書としてその口の軽さはどうなのよ、と思ってしまう。……まぁ、職務上の守秘義務を破っているわけじゃないからよしとするか。


   * * * *


 ――彼が予約してくれたお店は、オシャレな洋食屋さんだった。それでいてお財布にも優しい低価格で、これなら彼も支払いに困らないだろうなとわたしもホッとした。

「――食事の途中ですが、これを。絢乃さん、改めてお誕生日おめでとうございます」

 そう言って彼がビジネスバッグから取り出したのは、パールピンクの包装紙でキレイにラッピングされた細長い箱だった。大きさは十五センチくらいだろうか。光沢のあるワインレッドのリボンがかけられていた。

「ありがとう! これ開けていい?」

「ええ、どうぞ」

 待ってました、とばかりにわたしは丁寧にリボンの結び目を解き、包装紙をはがしていった。すると、そこから出てきたのは上品なピンク色のベルベット地のケースで、フタを開けると……。

「わぁ……、ネックレスだ。可愛い! 貢、ありがとう!」

 わたしはキラキラした銀色のネックレスを手に取り、目の前にかざしてみた。チェーンもチャームもシルバーではなく、輝きからしてプラチナ。チャームのデザインはシンプルだけれど可愛いオープンハートで、高級ブランドではないにしてもそこそこ値の張るものだと分かった。

「喜んで頂けてよかったです。……本当は指輪にしようかと思ったんですけど、まだ付き合い始めたばかりなのでちょっと重いかな……と。何と言いますか、束縛しているような気がして」

「指輪ねぇ……。確かにちょっと早いかな。――あ、ねぇねぇ。ちょっと貢にお願いがあるんだけど」

「はぁ、何ですか?」

「これ、今ここで、貴方に着けてもらいたいの。いい……かな?」

 わたしは上目づかいになり(計算でも媚びているわけでもない)、彼にお願いしてみた。もちろんその意味は、わたしの首からかけてほしいという方の意味だ。

「え、僕にですか? こういう頼まれごとは初めてなので、うまくできるかどうか……」

「うん、大丈夫。じゃあお願いします」

 わたしはもう一度彼に小さく頭を下げて、邪魔になりそうなロングヘアーを右肩から前に流して手で押さえた。

「……分りました。では、絢乃さんの後ろへ行きますね」

 背後へ回った彼はわたしからネックレスを受け取り、細いチェーンと格闘し始めた。中でも留め具に苦戦していたらしく、彼の指先が何度もうなじに当たってくすぐったかった。