「そんな、迷惑なんて……。すごく嬉しいよ。ありがと。開けていい?」

 口では「要らない」と言ったけれど、本当はもらえれば嬉しいなぁと思っていたチョコのお返し。まさか本当にもらえるなんて思っていなかったので、わたしは彼を見直した。

 リボンを解き、開いた袋に入っていたのは可愛いウサギの刺しゅうが入った桜色のタオルハンカチと、同じ色のアルミホイルに包まれた小さなハート形のチョコレートが二粒だった。

「このハンカチ可愛い……! ありがと、大事に使わせてもらうね! チョコは仕事しながらつまもうかな。貴方が淹れてくれたコーヒーのお供に」

「喜んで頂けてよかった。クリスマスに、僕からは何もプレゼントを差し上げられなかったので、名誉挽回といいますか……。実はチョコレートがついているのは会長の分だけなんですよ」

「えっ、ホントに? じゃあ、これ一つだけ特別ってことだね」

 わたしがバレンタインチョコで他の人との差別化を図ったように、彼もお返しのプレゼントに恋人となったわたしへのスペシャル感を出したかったのかもしれない。

「なんか『愛されてるなぁ』って感じがする」

 部屋の中に二人きりなのをいいことに、わたしはそう言ってフフフッと小さく笑った。


 ――彼とお互いの想いが繋がり合ったあの日。わたしは家の前までクルマで送ってくれた彼を、思い切って夕食に誘ってみた。

「……ねえ、桐島さん。よかったら、ウチで一緒に夕飯食べて行かない? ママにも今日のこと、報告したいから」

 ちなみに、わたしが彼のことを「貢」と呼ぶようになったのはその後のことであり、この日がわたしと彼が夕食を共にするようになったキッカケとなったのだけれど。

「ええ、ではお言葉に甘えてお邪魔します」

 初めて出会ったあの夜には、お茶に誘っただけで遠慮された。そんな彼が、この日初めて我が家での夕食の誘いを受けてくれたのは(クリスマスパーティーに呼ばれたという前例があったからかもしれないけど)、間違いなくわたしとの間に確かな信頼関係が築かれていたからだろう。……まあ、晴れて〝彼氏〟になったわけだから、彼女の家にお邪魔するのはごく普通のことで、断る理由もなかっただろうし。


 ――夕食の席で、わたしが貢と付き合うことになったと報告すると、母はすごく納得した様子だった。

「やっぱり、あなたたちはこうなるって早い段階から分かってたのよねぇ。絢乃、おめでとう! 桐島くん、絢乃をよろしくお願いします」