――翌日の終礼後。わたしは教室で帰り支度をしながら、里歩と話していた。彼女も学年末テスト前ということで、部活はお休み。もうすぐ貢が迎えに来るので、「あたしも久々に桐島さんに挨拶して帰るよ」ということになった。

「――へぇ~、アンタCMのオファー断ったんだ。もったいない」

「里歩、彼とおんなじこと言ってる……」

 わたしが〈Sコスメティックス〉のCM出演を辞退したことを話すと、里歩の反応は前日の貢とほぼ同じだった。

「だってさぁ、アンタ以上の愛用者はいないっしょ。なのに断っちゃうなんて」

「そんなこと言われても、わたしは女優でもモデルでもアイドルでも何でもないんだもん。俳優さんとキスシーンやれって言われても困る」

 百五十八センチの身長にサラサラのロングヘアー、長い睫毛(まつげ)と目鼻立ちのハッキリした顔、そして恵まれたプロポーション。わたしは確かに外見こそ芸能人っぽいかもしれないけれど、あくまで一般ピープル、普通の女の子だったのだ。……そりゃまぁ、少しばかりTVには出ましたけども。

「そうだけどさぁ……。小坂リョウジがファーストキスの相手っていうのはちょっといただけないか。だってアンタ、桐島さんの方がいいもんねぇ」

「…………うん、それはそのとおりなんだけど。そんなに茶化さないでよ。わたし今、本気で悩んでるんだから。彼との距離がなかなか縮まらないこと」

 貢がわたしの初恋の相手だということは、里歩もよく知っていた。
 茗桜女子はお嬢さま学校ではあるものの、こと男女交際についてはオープンだ。他校との交流もあり、里歩みたいに彼氏がいるという子も珍しくなかった中で、わたしは男性に対して奥手だったせいもあるのか恋自体したことがなかったのだ。だからこそ、好きな人との距離の縮め方が分からなくて悩んでいた。

「ふーん……。っていうか、アンタたちまだ付き合ってなかったの? もう知り合って四ヶ月っしょ? もうとっくにくっついてると思ってた」

「だって、今はそれどころじゃないもん。仕事いっぱい抱えてるし、経営の勉強も学校の勉強もあるんだよ? とてもそんな心の余裕なんか」

「まぁ、アンタはそうだろうね。人を好きになったのも初めてだし、どう行動していいか分かんないっていうのはあたしも理解できるよ。じゃあ、桐島さんの方は? 彼は一応恋愛経験ありそうだし、そこんところどうなわけ?」

「えっ? ……う~ん、どうって言われても……。真面目な人だし、上司と部下っていう関係上、いつも一歩引いてる感じだからなぁ。彼がホントにわたしのこと好きなのかどうかもまだよく分んないし」

 彼もわたしのことが好きらしい、というのは里歩が以前くれた情報のみで、本人に直接確かめたわけではないし、わたしには確かめる勇気もなかった。でも、前日のうろたえぶりからすると、里歩の推測はあながち外れてもいないような気がしていた。