「――改めて、貴方には心配をおかけしました」

 わたしはいつもの指定席である助手席ではなく、後部座席で彼に深々と頭を下げた。

「ホントですよ。あれほど無茶なことはするなと言ったのに。ヘタをすれば、絢乃さん、アイツにケガさせられてたかもしれないんですからね?」

 彼はまだご立腹のようだった。でも、それはわたしのことが本当に心配だったからにほかならない。

「だーい丈夫だって。そのためにあの頼もしいお二人にも協力してもらったわけだし。いざとなったらボディーガードをしてもらうつもりで――」

「イヤです」

「…………は?」

 彼に唐突に話を遮られ、わたしはポカンとなった。「イヤ」って何が?「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです。……すみません、ダダっ子みたいなことを言って」

「ううん、別にいいよ。貴方の気持ち、すごく嬉しいから」

 むしろ、ダダっ子みたいな貴方が可愛くて愛おしくて仕方がないんだよ、とわたしは目を細めた。

「それにしても、僕を守るなら他に方法くらいあったでしょう? あえて僕と離れて、中傷の目を遠ざけるとか」

「それは、わたしがイヤだったの。たとえ貴方を守るためでも、貴方と離れるなんてダメだと思った。だったら、一緒にいながら貴方を守る方法を取った方がいい、って。……まぁ、その分お金はかかったし、ちょっと危ない橋も渡っちゃったけど」

 傍から見れば、恋人のためにそこまでやるのかと呆れられるところだろう。確かにそうかもしれない。客観的に見れば、わたしのしたことは世間一般からズレているんだと思う。
 でも、本当に大切な人を守ろうと思ったら、その方法は人それぞれでいいんだとわたしは思う。だって、抱えている事情はそれぞれ違うんだから。

「…………まぁ、絢乃さんに何もなかったからもういいです。その代わり、僕に心配をかけるのはこれで最後にして下さいね? 約束ですよ?」

「うん、分かった。もう二度と、こんなことはしないって約束するから」

 わたしたちは指切りげんまんして、微笑み合った。


 ――これで、二人の恋路を阻むものはすべてなくなった。年の差も、身分の差も最初から障害になり得なかったのだ。わたしと彼の心が同じなら。

「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」

「はい。喜んでお受けします!」

 彼からの渾身のプロポーズに、わたしは喜び全開で頷いた。
 思えば初めてわたしの気持ちを彼に伝えた時、子供っぽい告白になってしまった。でも今なら、彼にとっておきの五文字で想いを伝えられるだろうか。あの時から少し大人になったわたしなら……。

「貢、……愛してる」

「僕も愛してます、絢乃さん」

 わたしたちは熱いハグの後、長いキスを交わした。