「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」

 これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。

「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」

「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」

 わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。

「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ?」

 彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。

「ええ、いますよ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」

「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」

 この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。

「まさか」

 わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。

「貴方が、その大事な彼を(おとし)めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。しかも、このためだけにわざわざXの裏アカまで作って」

「……っ、このアマ……」

「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」

 ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくなった。わたしにこんな(しょう)(わる)なところがあったなんて、自分でも驚いた。

「わたしが貴方を誘惑するわけないじゃないですか! 彼を傷つけた相手を好きになるわけないでしょ? 貴方の頭の中、お花畑ですか?」

 目の前で彼がプルプル震えているのが分かったけれど、まだこれで終わらなかった。

「わたし、貴方なんか大っっっキライです!」

「……んだと? さっきから黙ってれば好き勝手言いやがって! 俺をバカにしやがって! ふざけんなよ!」

「いいんですかー? そんな乱暴な物言いして。――さっきからわたしと貴方とのやり取り、ぜーーんぶライブ配信されてますけど? 貴方の裏アカから」

「…………!? な……っ」

「はいは~い♪ アンタの裏アカ、あたしが乗っ取っちゃいました☆ 今ねぇ、この様子の一部始終が全国のアンタのファンに垂れ流されてんの。これでアンタ、俳優としても終わったねぇ。はい、ご愁傷さま」

 わたしが目配せすると、建物の陰からスマホを構えた真弥さんと、その後ろに控えていた内田さんが姿を現した。