――貢に「考える時間がほしい」と言われてから一ヶ月が経過した。


 六月に入り、学校の制服も衣更えをした。わたしの学校生活では最後の夏服シーズン突入で、貢は初めて見るわたしの夏の制服姿も「可愛いですね。よくお似合いです」と言ってくれた。それは嬉しかったのだけれど、わたしの気持ちは梅雨時のジメジメと、彼に一ヶ月も待たされ続けていたモヤモヤであまりスッキリしなかった。

「だからって、こればっかりは返事を急かすわけにもいかないしなぁ……。どうしたもんかな」

 彼が給湯室へコーヒーの準備をしに行っていて一人になったのをいいことに、わたしはデスクに頬杖をついて盛大なため息をついた。

 結婚というものは、わたしだけの意思で決められるわけじゃない。彼の気持ちを無視しては進められない。だから、彼がそこのところをどう考えているか、キチンと話をして確かめたかった。でも、彼が「考えさせてほしい」と言っている以上、なかなかそのタイミングがつかめずにいたのだ。

 もちろん交際そのものは順調で、彼と別に気まずい空気になっていたわけでもないのだけれど。今ひとつ前に進めないというか、ちょっとした引っかかりがあるというか、何だかもどかしい気持ちになっていたことは確かだ。

「貢、一体何が引っかかってるんだろ? やっぱり過去に何かあって、それを未だに引きずってるのかな……」

 いくら気になるからといって、彼に正面切って「過去に何があったの?」とは聞きづらかった。彼のプライバシーにズカズカと土足で踏み込むようなことはしたくなかったので、彼の方から話してくれるのをひたすら待つしかなかった。

「もしくは外堀から攻めるか……。悠さんに訊いたら教えてくれるかな?」

 わたしは勢い込んでスカートのポケットからスマホを取り出し、悠さんにメッセージアプリで訊ねてみようと思い立ったけれど、「ダメダメ!」と正気に戻った。よそ様の兄弟ゲンカの種を作り出してどうするの!? ともう一人のわたしに叱られた。

「……やっぱりやめた」

 もう一度ため息をついてスマホをポケットに戻し、PCに視線を戻した。

「――お待たせしました、会長。今日は蒸し暑いので、アイスカフェオレにしてみました。ガムシロップも入っていますので、そのままお飲み下さい」

 そこへ戻ってきた貢は、氷をいくつか浮かべた冷たいカフェオレのグラスを、デスクに敷いたコルク製のコースターの上に置いた。ちなみにこのアイスコーヒーも、コーヒーにこだわりのある彼の手作りだ。一度にたくさん作って、ピッチャーにストックしてあったらしい。

「……あ、ありがと」

 オフィス内は冷房が効いていたのでホットでもよかったのだけれど、冷静になりたかったわたしはありがたくアイスカフェオレを頂くことにした。